第36話 全ての始まりを知りましょう 後編
「前世の記憶持ち、という話は耳にしたことがあるし、あり得ない話ではないよね。」
「ここまで様々なことが一致していますので、むしろ全て偶然である方のがおかしいかと。」
エルシエル様の言うように『前世持ち』について、この世界では珍しい話ではない。
だからこそ、同一人物だということを否定する方が難しいだろう。
「アイネス・ユーロズロッドは出雲梨真に転生し、そしてこの世界に転移してきた……?」
オズウェルが考え込むように言うと、ライオットさんがコクリと頷いた。
「そうです、アイネスは他の世界で出雲 梨真として転生しシルフレアは常に彼女についていた。そして、シルフレアは時期を見て聖女の紋章と共に彼女を転移させたのです。つまり、出雲 梨真とは善良さを取り払い自己を満足させる存在となったアイネス・ユーロズロッドである……これがこの事件の真実と発端です。」
正直、私が陛下から頼まれこの事件の解決に走り始めた時、全ての真相がこのような複雑で現実では信じられないような背景があることなど考えていなかった。
もっと、簡単でシンプルな問題だと思っていたのだ。
だけれど、関わるに連れて事態はどんどん複雑になっていて、私はこの事態を収束出来るのかと不安になっていた。
そして遂に神や龍までも関わっていて、何でもありかよ! という気持ちでしかない。
失礼、口調が乱れてしまいました。
ただそのおかげで、ならばこっちだって何でも使ってやるという気持ちになってくる。
神も龍も、全てを駆使してこの問題を解決すると。
そう決意した時、バタン! と音がした。
扉が開き人が現れたのだ。
「みなさんこんにちは、お話中失礼致します。」
神々が使う場所に唐突に現れた人物は全身黒づくめの少女だった。
背は小さめで人形のような顔立ちをしているが、肌の色や顔の作りがリマさんと似ているような気がする。
神々も龍も誰もその少女の存在に驚いてはいなかった。
「死神が一体何の御用でしょうか。」
夏目さんが静かに少女に問いかける。
死神ってこんな感じなのね……と私は静かに納得した。私はもう何が来ても驚かないような気がする。
「神でも龍でもない人間がいらっしゃる、珍しい。初めまして、私はこの世界を担当している死神の
秋紅音は、私とオズウェルとエルシエル様へ自己紹介をした後に頭をペコリと下げた。
彼女はここに入ってきてから表情筋はあるのかとこちらが不安になる程に一貫して無表情だった。
死神とはもしかしたら全員そうなのかもしれない。
それから、秋紅音はライオットさんたち神々と龍の方に向き直った。
「この度、アイネス・ユーロズロッド 現名 出雲 梨真 又の名を リマ・ベネダ 並びに 堕神 又 悪魔であるシルフレア・ニエスの処罰のご説明に参りました。
まず、許可なき転生 また許可なき転移という違反行為。神が人に直接能力を与えるという違反行為。大国の情勢を傾かせた上に潰すという世界均衡を崩壊させた違反行為。ひいては再び同じ過ちを繰り返そうとしている行為、などなど様々な要因から我らが冥府の神 ハデス様は大変お怒りです。我ら死神は即刻、出雲 梨真の命を狩り 且つ シルフレアを捕らえなければなりません。」
秋紅音は淡々と告げていく。
遂に四大神と言われている神の名までも現れた。
創造(天空)の神、冥府の神、大地の神、海の神が四大神であり、世界を創造したと言われている。
秋紅音の言葉の一つに引っかかりを覚えた。
命を狩る、ということは殺すということで違いないのだろうか。
「困ります! 国としての問題は未だ解決していません。彼女の生きているうちは我々が正当に処罰を下します。」
私が秋紅音に物を申すと、彼女は相変わらず無表情で顔だけをこちらに向けた。
「人間の意見など聞いていません。」
そう冷淡に告げて再び神々の方に顔を向ける。
「しかし、シルフレアが邪魔をしていて出雲 梨真の魂を狩れないのですが、シルフレア自身も表立って現れず困っているのです。」
「それならば、彼女たちに手伝って貰えば良いでしょうねぇ。彼女たちは長く出雲 梨真の処罰のために準備をしてきました。そして、その準備がようやく整うのです……ですよねぇ?」
ライオットさんが私に投げかけてくる。それに私はコクリと頷いた。
「はい、リマさんに危険があればシルフレアが姿を現わすかもしれません……なのでリマさんの命を狩ることはもう少し待って頂けませんか。」
私がそう懇願すると、初めて秋紅音は眉をピクリと動かした。
「貴方たちは、人間に今後の展開を委ねろと仰るのですか。」
「なにぶん、俺たちは人間社会に直接手を下せない。俺たちの使命は世界の均衡を揺るがさないために動くことだけだ。人間のことは人間に任せるのが1番だと思わないか?」
秋紅音の言葉に助け舟を出したのはジュファだ。
どうやら神々は私たちの味方をしてくれるらしい。
味方、というよりは合理的な協力体制か。
「結局、我々も龍も出雲 梨真には手を出せず、だからといってシルフレアをおびき出すことも出来ない。人間たちのいうところ、完全に詰んでいるのですよ。その突破口が彼女たち人間なのです。」
夏目さんも秋紅音に申し入れてくれた。
「私たちは、この問題を解決した後のことまで口に出そうとは思っていません。ただ、私たちの問題を解決したいだけなのです。」
秋紅音は私の方をジッと見つめる。
目が少しも逸らされない。逸らしてしまいたくなるが、ここで彼女から目を離して仕舞えばこの交渉は終わりなのだと感覚が告げる。
緊張が走る。
負けたのは、秋紅音の方だった。
顔を神々の方へ向ける。
「なるほど、状況的に人間に託さねばならないのだということは理解しました。失敗したのなら、最終手段として死神は総出で出雲 梨真の魂を狩りに行きます。我々がそこまでするということは多少均衡が崩れるでしょうが、あなた方に拒否権はありません。これは冥府の神 ハデス様の意向です。よろしいですね。」
神々は特に何も答えない。
「無言は了承と捉えます。」
秋紅音はそう吐き捨てるとクルリと後ろを向いて扉へ歩き出した。
「それでは、私は動向を見守っていますので、どうぞよろしくお願い致します。」
扉前でペコリと頭を下げて、バタン! と扉から出て行く。
嵐のようにきて嵐のように去っていった。
「我々も何か力になれることがあれば協力致しますので。」
ライオットさんが私たちにそう告げる。
それから、神々のみで会議を続けるということで私たちは帰るように促された。
怒涛の展開に、私は疲労を覚えないわけがなかった。
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