第34話 全ての始まりを知りましょう 前編
ライオットさんは、転移魔法が使えるのだろうか。
扉の先の光景に私は心底驚いていた。
王城の廊下があるはずなのに、円卓のある部屋がそこにある。そして、既に何人かが座っていた。
「こ、これは一体どういう……。」
「ミシュメール・トリドリッド、君の会議への参加は認めてはいません。」
ミシェルが狼狽えながらこちらに歩み寄ろうとすると、ライオットさんが厳しい口調でそれを制した。
「しかし、いずれ貴方も会議へ参加する機会が訪れることでしょう。それまで暫し待つのです。」
「……わかりました。」
ミシェルは何かを感じたのか、静かにそれを受け入れた。それから、私と目が合うとニコリと笑みを浮かべてた後に『気をつけて』と口型で伝えて小さく手を振った。
私はコクリと頷いて、円卓の部屋へ歩んで行くライオットさんに続いた。
私の後ろをエルシエル様が歩き、最後尾にいたオズウェルが部屋に入った瞬間にドアがバタンと閉まる。
その音に部屋にいた人たちが一斉にこちらを向いた。
殆どの人の容姿が異なっていて、これは一体何の会議なのかという疑問が募る。
容姿というのは単純な意味ではなく、1人1人出身が違うという意味合いだ。生まれた場所によって肌の色などの身体的特徴は異なる。そういう意味で集まった人々の容姿が全く異なっていたのだ。
その中に1人だけ見知った顔を見つけて、私は少し安堵をした。
「おやおや、ユニさん。なぜ、ここへいるのですか?」
夏目さんにそう問われ、私は何も言えずに狼狽える。
そもそもここが何の場なのかもわかっていないし、何のために参加を認められたのかも理解していない。
返すことのできる答えが見つからなかった。
「私が参加を認めたのですよぅ、彼女にはその資格があると判断致しましたので。」
助け舟のようにライオットさんが代わりに夏目さんに答えた。そうすると夏目さんが、ふむと納得してからジッとライオットさんを見る。
「それはそうと、大幅な遅刻ですよ。貴方が最後です。」
「申し訳ない、アレグエッド王国の今後に関わる重大な決定の瞬間に立ち会っていましたもので。」
ライオットさんはそう言った後に、チラリとそばにいるエルシエル様に目を向ける。エルシエル様はその視線を受け取って、スッとライオットさんの横に並んだ。
「この度、アレグエッド王国は次期国王と見なしていたリュドリューク・アレグエッドから王位継承権を剥奪し、再びエルシエル・トリドリッドへ王位継承権を与え、彼を次期国王として擁立することになりましたのでご報告致します。」
「再び世界の秩序を守ることに従事出来るよう努めますので、今一度ご助力のほど願います。何卒よろしくお願い申し上げます。」
ライオットさんの紹介を受けて、エルシエル様は円卓に座る人たちへ向けて挨拶の言葉を口にする。
円卓の者たちは、エルシエル様と面識があるようでそれを認めるように拍手をした。
「なるほど。この議会の承認がなければリュドリューク・アレグエッドの王位継承権は奪えないため、大幅な遅刻をせざるを得なかった……という言い訳かな? ライオットよ。」
苦言を呈したのは、雪のように真っ白な肌に銀色の髪というルジエナ出身者と同じ身体的特徴を持つ者だった。ルジエナの者だろうか。
「しかしながら、今日を逃せば会議はまた1,2ヶ月先になりますからねぇ。言い訳ではなく正当な理由です。」
「あ、あの!」
遂に、この状況に着いていけず耐えきれなくなった私は声をあげた。
「この会議は、何のための会議なのでしょうか?」
私の質問に対して、誰が答えるべきかと円卓の人々は目配せをする。そんな中で、ライオットさんがスッとこちらに身体が向くように移動して口を開いた。
「世界の均衡を保つための会議ですよ。」
未だ頭の中で事の次第を整理出来ていない私は、混乱を極めた。
「改めて自己紹介をしますと、私はアレグエッド地区を担当する神となります。」
「……は?」
私の混乱する様子を見て、より分かりやすくするためなのか告げられたライオットさんの告白。しかし私は、それによって与えられた驚きを隠せず、つい令嬢という事実を忘れて素の反応をしてしまう。
それはオズウェルも同じで、ポカンと口を開けていた。フリーズしているので情報処理が追いついていないのかもしれない。
エルシエル様は、ライオットさんのどんな発言にも驚く様子が少しも見受けられないので全てを知っているのかもしれない。その証拠に私たちの驚いた様子を見て、面白そうに……いやむしろ嬉しそうにニコニコとしている。
「世界には、主要国の中心人物に世界の均衡を保つために神が紛れているのです。アレグエッドでは、ご存知の通り私が宰相として仕事をしながら管理をしています。」
神が政治へ干渉しても良いのだろうか。
そう思ったが、それこそ均衡を保つために裏で様々な調整をするためにも近くにいる必要があるのだろう。
ここにいる者が神ということは、まさか。
「夏目、さんも?」
「お察しの通り、私は東国で外交官として紛れています。魔族の混血というのも、ずっと外交官として存在していることを不思議に思われないための嘘ですし、アレグエッドの内情を知っているのも神同士の情報交換の末に把握しているためです。美夜子の保護も神としての立場で行なっていますので、彼女も私が神であることは知っています。」
私は、神様と取引をしていたのか!?!?
少なくとも、私たち国民は宗教として神を崇拝している。それが、こんなにも身近な存在だと思うと自身の中の価値観が何だかズレるような気分になった。
だからこそ、きっとこの事実について知るのは国のトップのみなのだろう。
そして、私とオズウェルは特例中の特例。私たちがここにいる意味はつまり、リマさんについての事件が私たちの思う以上に世界の均衡を揺るがしているということだ。
「この世界を担当している神は8人。私と夏目さん以外に、セラ・アルバ皇国、絶対王政主義国家ルジエナ、カルクレア自然同盟国にオハミア朝、李煬帝国、魔国に常駐しています。」
なるほど、身体的特徴の異なる人たちが集まっているのは各々、国に適した姿になってその国に紛れるためか。
種族も異なれば年齢も異なる。
そんな彼らの共通点を見ただけで察するには無理がある。
「以前のサシャ峠の戦で、セラ・アルバとアレグエッドが同盟を結んだことも、議会で決め
褐色の肌に黒の瞳というセラ・アルバの身体的特徴を持つ老人が話しながら1人の男に目を向けた。
ジュファと呼ばれた男は、ルジエナと同じ身体的特徴を持つ者だった。私の見立ては間違っていなかったようだ。
「仕方ないだろう? ルジエナの今代の王は歴代一の支配欲を持つ暴君だ。そもそも我々の存在を知らせていないのだから、影ながら国を動かすしかない。」
どの国も王が『世界の真実』を知っているのかと思えばそうではないらしい。多様な人がいるだろうから、教えるかどうかは人によりけりということなのか。
歴史的に見ても、ルジエナは今代の王になってから他国に積極的に進軍している。
おかげで戦争も過激化しているし、メイエン地域もルジエナの手に堕ちた。
「じゃあ、暗殺して新しい王を擁立しちゃえばいいのに。実際、今代のルジエナの王は完全なるバグだよ。」
耳にしたことのある声が聞こえる。
発言をした者を見ると、戦争の際に見た少女だった。
私が意識を失う前に声を掛けられた少女。
声を掛けられた? というよりは、攻撃された印象が強い。
「リドル、お前はいつも考え方が短絡的すぎる。邪龍なんて人間に悪い印象与えてる龍はお前くらいだよ。」
ジュファは呆れたように溜息を吐きながら、リドルと呼ばれた少女を見て厳しい口調で言葉をかけた。
「貴方の管轄はルジエナであるし、これ以上問題を起こすようなら処分を下すことになるわよ。以前に一度厄災を引き起こしたことを忘れてないでしょうね。」
エルフの姿をした女性が、ジッとリドルを見ながら告げる。エルフということは、彼女はカルクレア自然同盟国を担当としているのだろう。
「わ、わかってるよ。」
リドルはムッとしながらも了承した。
邪龍と呼ばれていた、ということは彼女は神ではなく龍なのだろうか。
「ここに集っているのは神だけではありませんよぅ。世界の均衡を保つ為に神が、そして、世界の異変を修正する存在として龍が地方ごとに担当していて、リドルはルジエナを担当しています。」
私の予想を見透かしたようにライオットさんが説明をしてくれる。
その説明の中に自身の名が出たために、リドルはジッとこっちを見た。
「バグのくせにこんなとこまで来るなんてね。」
どうやら、リドルは私のことをバグと呼んでいるようだ。なんて失礼なのだろう。
それから、視線をオズウェルに移す。
「また会ったな、人間。ボクの姿を2度も見られるなんて運が良いね。」
「俺は見たくない。」
オズウェルは顔をしかめてリドルへ言葉を返す。
元々良いとは言えない人相がさらに悪くなっていく。
オズウェルとリドルは、いつ会ったのだろう。
私が意識を手放した時、オズウェルの声が聞こえたような気がした。あれは気のせいではなくて本当だったということか。オズウェルが私を助けてくれたのか。
そう考えて、なんだか嬉しさを感じた。
「ユニ、あたしのことわかる!?」
急に席を立ち、こちらへ向かってきた女性? 男性? どちらなのかわからないが、とても綺麗な人が私の手を取って問いかけてきた。
私の知り合いにこんな人がいただろうか?
記憶を手繰り寄せても全く覚えがない。
そもそも、こんな綺麗な人1度会ったら忘れるはずがない。
「申し訳ありませんが、記憶にありません。」
私がバッサリと答えると、相手はあからさまに肩をガックリと落とした。
「そうよね、この姿でわかるわけないわよね。」
ポツリと呟いたあと、目の前には人ではなく腕に収まるサイズの竜がいた。
「……え。」
見たことのある竜に私は驚きすぎて声が出ない。
それは、気まぐれに私の前に現れる竜だった。
「メルガー、なの?」
問いかけに竜は元気よく「きゅっ」と鳴いた。
それから、また人型に戻る。
「あたしは元々メイエン地域担当で……でもメイエンがなくなってしまったから、貴方のような『大きな病気』という問題を抱えた人を対象に監視や修正、対処を行なっているの。これからもあたしが貴方を守るわ。」
メルガーはニコリと笑って、私の頭を撫でる。
なんだか、全ての事実が急すぎて私の頭がパンクしてしまいそうだ。
しかし、こうして私のことを近くで見て守ってくれる人がいるというだけで安心出来る。
私がまた暴走してしまわないように。
「キミが対象として認定されたのは、アレグエットの近くにある森一帯を焼き払ったことだ。あの時は、偶然にも闇の大精霊ニコラスにより鎮められたが、再び同じことが起こらないよう、キミも気をつけることだね。」
メルガーとのやり取りのあとに、1人の少年がこちるに声をかける。あのことについて声をかけるということは、彼がアレグエットを担当する龍なのだろうか。
森が焼き払われた時のことを鮮明に覚えているような夢の中にいるような……記憶が曖昧でよく分からないけれど。
あれ以来、私は自分自身が怖くて仕方ない。
「世間話はこれくらいにして、そろそろ本題に入りましょうか。」
ライオットさんが、全員の視線を集めるためにパンッと1つ手を叩いた。
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