「竜吾と大空の戦い」
竜吾は白い両翼を激しく、動かして上昇していく。目的は一つ。魔王ヴァーレスの討伐である。
「ここで終わらせる!」
竜吾はヴァーレスに雪のように白く美しい炎を吐き出した。ヴァーレスが瞬時にそれをかわして、漆黒の炎を吹きかけてきた。
「懐かしい感覚だ。アレフとメノール。奴らも戦った時を思い出す。なんとも忌々しい記憶だ!」
ヴァーレスが身の代わりから黒い気のようなものは纏い始めた。何事かと身を構えていると突然、目にも止まらない飛行速度で竜吾を鋭い爪で斬りつけてきた。
「ぐっ!」
竜吾の陶器のように白い鱗が破れて、血が流れて落ちた。おそらくマナで全身の身体能力強化を施したのだ。
「大丈夫!?」
「うん。これくらい問題ない。アイナもしっかり掴まっていてね」
あのような連続攻撃で竜吾の体が揺れてしまえば、アイナも振り落としてしまう可能性もある。
「でも負けるわけにはいかない!」
竜吾は闘志に再び、火を灯してヴァーレスに突っ込んだ。対するヴァーレスも竜吾に向かっていき、互いに体をぶつけた。
あまりの衝撃が強いせいか、遥か下にある森の木々が揺れ動いた。
「しつこい奴め!」
ヴァーレスが再び、口から漆黒の炎を吐き出した。
。
「お互い様だよ!」
竜吾は白く美しい炎を吐き出し、中心でぶつかり、凄まじい爆発音が鳴り響いた。
爆発により発生した黒煙が消えると、邪悪な黒竜が不快な笑みを浮かべている。
何度も炎を吐ける辺り、体内に膨大な量のマナが残っている。形勢がこちらに傾いてきているとはいえ、油断はできない
「一つ、聞きたい。何故、お前たちは強者でありながら力を振るわない? 強者こそ正義。それが世界の理よ。先に粛清しておけば虐げられなくて済む。他の強者に命を脅かされなくて済む」
竜吾はヴァーレスの言葉から彼の内面の一部を僅かだが理解できた。絶対的な力を持ち、傍若無人な振る舞いをする理由。
それはおそらく恐怖だ。野生の頃に食物連鎖の最下層で多くの捕食者に襲われてきた時に植えつけられた心臓を掴まれるような経験の数々。
それが彼の根幹で何百年も生き続けているのだ。命を脅かされたから戦うのではない。命を脅かされる前に殺すのだ。例え、相手が善良な存在だったとしてもである。
するとアイナが隣で何かを発言する前触れのように軽く息を吐いた。
「私たちの世界は大勢の存在で支えられている。無論、私もそう。私も昔はすごく弱かった。実も妹や両親に能力の低さを侮辱されながら生きてきた」
彼女の口から次々と悲惨な過去が明かされていく。しかし、沈鬱になるような内容とは正反対に彼女の表情は凛としていた。
「でも竜吾に出会ってから、全てが変わった。強くもなれたしその力で助けた騎士団とも繋がり、妹を倒すことができた」
竜吾もここ数ヶ月、彼女の事をそばで見てきた。ある時は喜び、ある時は泣く、そんな時間を共に過ごしてきたのだ。
ヴァーレスはマナで手に入れた強大な力は私腹を肥やす為に使った。竜吾とアイナはそれを他者のために使った。
だからこそ今の仲間達がいて、繋がりが生まれたのだ。
「どんな事があっても、私は暴力を振るわない!」
「僕もだ。この力はお前を討ち取る為にメノールが託してくれたものだ。だから乱暴はしないよ」
竜吾はヴァーレスを強く睨みつけた。彼の目にはもう魔王に対する恐怖の色はない。
あるとは燃え上がらんばかりの闘志と仲間への想い。それらが合わさり、彼の手足を動かす原動力となるのだ。
「ふう。そうか。やはりつまらんな。貴様らは!」
ヴァーレスがソニックブームを起こしながら、目に止まらない速度で滑空してきた。
「いくよ。アイナ! これが最後の戦いだ」
「うん!」
竜吾は再び、硬い決意を胸に宿してアイナとともにヴァーレスを迎え撃った。
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