「竜吾と反撃の狼煙」


 竜吾は聖竜へと変化した姿でアイナの姿を見つめた。見るのも辛くなるような痛々しい姿。目元と見るとほんのり赤くなっていた。


 おそらく先ほどまで、竜吾が死んだと思って泣いていたのだ。心配をかけた罪悪感とともにこの戦いを終わらせようという硬い使命感により強固なものへと変わった。


「竜吾。本当に竜吾なの?」


「うん。ごめんね。待たせて」

「喋れるようになったんだね」

 アイナの顔に僅かに笑顔が戻った。周囲を見渡すと皆、個々に違う表情を浮かべていた。


 レティールは驚いたような表情。アーノルドは笑みを浮かべており、エーナはどこか懐かしむような顔を作っていた。



「その姿は聖竜メノール」

 ヴァーレスが憎悪を孕んだような鋭い視線を竜吾に向けた。竜吾は鋭い眼光で睨み返すと、ヴァーレスが低く唸った。


「終わりにしよう。ヴァーレス!」

 竜吾は天に向かって、周囲に轟くような方向を上げた。彼の足元から黄金に輝く巨大な魔法陣のようなものが森に広がっていく。


「なっ!」


「これは!」

 アイナ、アーノルド、レティール、エーナ。そして、騎士団の兵士達の傷が癒えていく。それどころかマナにより肉体強化も施されたのだ。


「あれっ? 体が痛くなくなった?」


「すごい。傷が。それに力が溢れてくるぞ!」


「これが聖竜メノールの本来の力」


「今なら勝てるぞ!」

 先ほどまでの絶望に支配された空気とは打って変わり、周囲から希望に満ちたような言葉が溢れ出て来た。


「いこう! アイナ!」


「うん!」

 竜吾はアイナと仲間達とともに最恐の敵の元に向かっていった。


「図にのるな! 下等生物どもが!」

 ヴァーレスが声を荒げて、口から漆黒の炎を吐き出した。竜吾はそれを難なく、かわして、鋭い爪でヴァーレスの頰を斬りつけた。


「グアア!」

 竜吾の強烈な一撃が効いたのか、ヴァーレスが頰から真っ赤な血を流しながら、叫び声をあげた。


 心なしか再生速度がさっきよりも遅い。ダメージが大きいので再生に時間がかかっているのだろう。


「いけー!」

 アイナや騎士達が風のような速度で斬りつけていく。鋼鉄のように硬い鱗は紙のように裂かれて、吹き出た血が周囲の草花を赤く染めていく。


「ぐっ! 再生速度が遅い!」

 竜吾の強化能力が予想以上だったのか、ヴァーレスの表情に焦りの色が見え始めた。


「部下達の仇! 打たせてもらうぞ!」

 アーノルドが眉間にしわを寄せながら、俊足とも呼べる動きでヴァーレスを斬り裂いた。


「グッ!」


「いけ! アイナ!」


「喰らえ!」

 アイナが目にも止まらない速度でヴァーレスの間合いに入り込んだ。膨大なマナを宿した斬撃を叩き込んだ。


「ギャオオ!」

 凄まじい爆発が起こり、ヴァーレスが尻餅をついた。


「今です! エーナ!」


「任せて!」

 レティールとエーナが一点にマナを注ぎ始めた。二人のマナが混じり合い、凄まじいマナの濃度に達していた。


「吹き飛べ!」

 二人の掛け声とともに放たれたマナの塊は地面を削り取りながら、ヴァーレスに迫っていく。


「返り討ちにしてくれるわ!」

 ヴァーレスが口から激しく燃え盛る漆黒の炎を吐き出した。マナの塊と炎が激しくぶつかり合い、中心で大きな爆発が起こった。


「凄まじい威力だ」


「ヴァーレスは?」

 アイナが周囲を探すものの、爆発により黒煙が立ち込めており、よく見えない。

 すると竜吾は頭上から凄まじい殺気を感じた。


「上だ!」

 竜吾がそう叫んだ瞬間、上空から無数の黒炎の玉が雨のように降り注いで来たのだ。


「結界を張ります!」

 レティールが竜吾達全員を守れるほどの結界を生み出した。しかし、威力が高いのか、結界にはヒビが入っていた。


 さすがは魔王といったところか、いくら強化を施されていても技の威力はあちらの方が上手のようだ。


 火の雨を降らせた張本人は月を背中に巨大な両翼をはためかせていた。


「ここまで追い詰めたのは褒めてやろう。だがお前達に明日は来ない。貴様らを殺して、マナを根こそぎ奪い取ってやる!」

 ヴァーレスが竜吾達に憎悪を孕んだような目で睨みつけてきた。殺気を放ってはいるが、確実に弱っているのは一目瞭然だった。


「アイナ。僕の背中に乗って」


「うん」

 アイナが頷くと、竜吾の鱗に覆われた巨大な背中に乗った。乗る前に彼女が生唾を飲むのが、聞こえた。おそらく緊張しているのだろう。


 しかし、それでも魔王を討ち取る為に緊張を押しとどめたのだ。竜吾は彼女の心の強さに改めて、感心した。


「いくよ!」


「うん!」

 竜吾は白い両翼を羽ばたかせて、ヴァーレスの元に飛び立った。

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