「トカゲと全戦」
凄惨な森の中、マナの消費と肉体的な疲労を感じていた竜吾の目に勇敢な兵士達の姿が映る。
「私も加勢しなきゃ!」
竜吾の友であるアイナも剣を取り、再び駆け出した。勝負はまだ終わっていない。
「くだらん。実にくだらん」
ヴァーレスが呆れたような口調でそう呟くと、鞭のようにしなった尾を振り上げてきたのだ。
「障壁!」
レティールが瞬時に光の障壁を生み出していたが、直撃した瞬間、あまりの衝撃で彼女を含む兵士達を一瞬でなぎ払われた。
「ぐああ!」
「ああああああ!」
目にも止まらない速さで再び、木々や地面に叩きつけられる兵士達。周囲から呻き声が響き渡る。
「よくもみんなを!」
アイナが自分の心に喝を入れるように叫びながら、剣を振るった。竜吾は気づいた。彼女の目は涙で潤んでいた。おそらく先ほどの兵士達に同情したのだろう。
「おのれえ!」
アーノルドも同じく声を荒げながら、ヴァーレスの元に走っていく。今、地面に倒れているのは共に汗を流し、共に修羅場を乗り越えて、同じ釜の飯を食らってきた同志達だ。
竜吾はふと飛ばされた方の兵士達に眼を向けると、レティールが倒れている。
その傍らには心配そうな表情を浮かべるエーナの姿が見えた。
彼女も魔王に父を殺されたという悲惨な過去を持っている。その無念を晴らすために何百年も生きてきたのだ。
何としても、晴らしてやりたい。竜吾は心底、思いながら迫り来る魔王の姿に目を向けた。
「愚かだな。ここまでされて学習もせんとは」
ヴァーレスが鋭利な爪が備わった右腕を振り下ろしてきた。アイナが瞬時にかわして、目にも止まらない速さで斬り刻んでいく。
アーノルドもそれに続いて、彼女を凌駕する速度で攻撃する。彼女と彼は師弟のような関係だ。
剣技も必然的に似るのか、息が非常にぴったりである。
「全力で叩き込め!」
アーノルドの言葉に背中を押されたのか、アイナの動きに磨きがかかっていった。
「喰らえ!」
エーナが黒いマナの塊をヴァーレスの頰に打ち込んだ。爆発音とともにヴァーレスが不快そうな表情を浮かべた。
「どこまでも我の邪魔をするか! 小娘!」
「邪魔? 邪魔なのはお前だ! お前さえいなければ父が平和な世界を作っていたんだ!」
エーナの美しい宝石のような紫色の瞳が涙で揺らいでいる。愛する父親を殺された彼女のヴァーレスに対する憎悪は計り知れないものだ。
「ここで終わらせるんだ! お前との因縁も! 全て!」
エーナがマナを放ちながら、距離を詰めていく。アイナ、アーノルドも続いて残酷なまで激しい攻撃を打ち込んでいく。
今、現場で戦えるのはアイナ、アーノルド、エーナの三人だけだ。この三人に世界の命運がかかっていると言っても過言ではない。
「喰らえ! 私達の思いを!」
「くどい」
頭上から憤りを感じさせる低い声が耳に入った瞬間、竜吾達は宙を舞った。よく見ると魔王の爪に鋭利な血がべっとりとこびりついていた。
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