「トカゲと勇気ある同志達」
竜吾はアイナとともに最悪の敵である魔王ヴァーレスに元に駆けていく。
眼前では怒号をあげながら無数の兵士とアーノルド、レティール、エーナが邪悪な黒竜と死闘を繰り広げている。
「まだまだだ!」
ある兵士は矢を放ち、またある者はマナの塊を打ち込むなどヴァーレスに対抗していた。
しかし、攻撃する隙を与えていないものの、相手にはあまり響いている気がしなかったのだ。
「こいつ! これだけやってもまだ!」
「虫けら風情が」
ヴァーレスが巨大な漆黒の両翼を広げると一気に兵士達に振り下ろした。突如、巻き起こった凄まじい突風により、兵士達はことごとく吹き飛ばされてしまった。
「うわー!」
「みなさん!」
アイナが魔王の目の前に兵士達を守る盾となり、仁王立ちをした。無論、竜吾も体躯は小さいがその気概である。
「打ち取る!」
彼女が駆け出して、目に止まらない速度でヴァーレスの鱗を切りつけていく。
そして、アイナを支援するようにアーノルド、レティール、エーナが続けざまに攻撃する。
この四名は竜吾のマナを受けて強化状態にかかっているため、この場では兵士達よりも魔王に有効的な攻撃が出来る。彼、彼女らの猛攻がヴァーレスの硬い鱗を砕いて、厚い肉を切り裂く。
「どうした? その程度か!?」
しかし、ヴァーレスの方に眼を向けると、余裕の笑みを浮かべている。よく見ると傷口が瞬時に再生していたのだ。
「なっ! そんなバカな!」
「あれだけ。攻撃を加えたのに」
竜吾を含めた一同が驚愕していると、ヴァーレスが見下したように卑しく口角を上げた。
「その程度の攻撃。我の再生を持ってすれば何の問題もない」
そう言うとヴァーレスが再び、漆黒の業火を吐き出した。
接触してはいけない。本能的に察知するほど、その炎からは殺意に似た気を感じた。黒炎が森の木々などに燃え移り、焦げた匂いが発生し始めた。
「貴様!」
森の番人でもあるレティールが怒気を孕んだような声でヴァーレスに怒りをぶつけた。
自身が愛した森が第三者により、破壊されるのだ。黙っていられるはずがない。
「フハハ。辛いか? 悲しいか? なら我に挑め。そして、殺してみせよ!」
「言われなくても!」
レティールが鋭い目つきを作り、マナで想像した無数の矢をヴァーレスめがけて放った。
目に止まらない矢じりの数と速度に竜吾は目を疑った。ザクザクと音を立てて、矢が黒竜の鱗を貫通していく。
「フハハハハ! ぬるい。ぬるすぎる!」
ヴァーレスが先ほどと変わらない余裕の態度で竜吾達に語りかけてきた。
すると周囲から地面をするような音が複数聞こえ始めた。目を向けるとそこにはヴァーレスの攻撃で木々や地面に叩きつけられた兵士たちだったのだ。
「隊長達だけに任せられるか!」
一人の兵士を筆頭に先ほどまで倒れていた兵士たちが突っ込んでいく。
「うおおおおお!」
「負けるか!」
「ここで終わらせる!」
数多の想いと願いがこもった叫び声をあげながら、兵士達が特攻していく。ここにいるのは皆、自分の命より世界の平和を思う者達なのだ。
「よすんだ! おまえたち!」
アーノルドが必死に止めようとしたが、彼らは御構い無しに走っていく。騎士団長の身としてはこれ以上、部下の死を見たくないというのが本音だろう。
しかし、竜吾は彼らのあまりの気高さに感動し、涙がこぼれ落ちそうになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます