「レティールとノワール2」


 レティールは息を切らしながら、目を丸くした。吸血鬼のノワールと激闘を繰り広げている途中、周囲のゾンビ達が膝から崩れ始めたからだ。


「ゾンビ達が倒れていく」


「アイナと竜吾がやったという事だね」

 エーナの言葉でレティールは勝利へと近づいている事を悟り、口角を上げた。


「ゾンビどもが倒れていくぞ!」

 兵士達も気づいたのか。安心したような様子を浮かべたと同時に虚しさが漂うような表情を浮かべた。


 ゾンビと化した兵士達が消えていくのだ。敵として戦っていたとはいえ、かつては剣を重ね、実力を高めようと切磋琢磨しあった仲間だ。


 悲しみや虚しさを抱かずにはいられないだろう。


 レティールも同じだ。何百年ぶりに出会った同胞が魔族に利用されて、盲目的に命令に従う奴隷に成り下がっていたのだ。


 しかし、ラゼルが死んだ事により、ゾンビ化の効果も終わった。血と断末魔に支配された戦場の中、レティールは呪縛から解放された同胞達の魂が無事、天に登るように切に願った。


「おやおや、ゾンビ達が死んでいく。ということはまさかラゼルさん。死んだの?」

 ノワールが指でこめかみ部分を掻きながら、納得したような表情を浮かべていた。


 しかし、そこには仲間を失った事への悲しみは感じられなかった。


「悲しくないんですか?」


「いや、いなくなったのは仕方がない」

 ノワールがそっけない態度で応えた。彼の冷めきった態度でレティールはその強さ以上に精神的な面に怖気が走った。


「さーて。魔王様が来る前で君たちの事、パパッとお掃除しちゃうね」

 ノワールが見るからに猟奇的な笑みを浮かべた。なんとも気味の悪い最悪な笑顔だ。


「終わりにする! エーナ!」


「任せて!」

 レティールとエーナは殺意とともにマナを手のひらから放った。ノワールが余裕の表情を浮かべて、躱したのち近くにいた兵士の血を吸い取った。


「うーん。やっぱ血は元気の源だね」

 顔に先ほど以上に生気が宿っているノワールとは対照的に、足元には血液を抜かれた枯れ木のようになった兵士が倒れている。


「弓に切り替えて!」

 エーナの指示により、周囲の兵士たちが瞬時に弓を取り出して、ノワールめがけて乱射を始めた。


 風を切るような勢いで無数の矢が残酷な吸血鬼めがけて飛んでいく。


「ふむふむ。近づいたら吸血されるから弓での攻撃に移行したか。でも!」

 ノワールが不気味に口角を上げた後、頭上から降り注ぐ矢を全て躱して、兵士達の元に突っ込んできたのだ。


「ぎゃあああ!」


「がはっ!」

 兵士たちの断末魔や悲鳴が一気に湧き上がった。見るからに兵士たちの数が減っている。


「はあ!」

 レティールは何度もマナで生み出した光の球体を放ち、ノワールを引き離した。


「ぐっ!」

 先ほどからマナを使いすぎているせいか、レティールは険しい表情で激しく息を切らし始めた。ノワールが涼しげな表情で佇んでいる。


「どうしたんだい? もっとかかってこないと負けちゃうよ?」

 狡猾な吸血鬼が嘲笑うような口調で声をかける。彼女の怒りが煮えたぎっていく。

 

「ノワール!」

 エーナが眉間に皺を寄せながら、黒い球体を敵めがけて、打ち込んだ。しかし、ノワールが余裕そうに身を振り替えした。


「エーナだったっけ。君もしぶといね」

 

「レティール大丈夫!? 待っていて。私の魔力を分ける」


「いいよ、貴女も辛いでしょう?」

 図星だったのか。エーナが苦笑を浮かべた。先ほどからレティールとともにマナの塊をノワールに打ち込んでいる。彼女自身、かなり辛いに違いないのだ。


「かなり疲れているみたいだね。二人ともすぐに吸い殺して、楽にしてあげるよ!」

 ノワールから殺気を感じた瞬間、光の斬撃が彼の元に飛んできたのが見えた。


「うわっ!」

 ノワールに激突したのか。斬撃の勢いで待った土埃が彼女の視界を塞ぐ。徐々に晴れていき、真っ先に視界に入ったものを見て、彼女は目を丸くした。


「お待たせしました」

 そこにはラゼルとの激闘を終えたアイナ・フリードが二人を守る壁のように立っていたのだ。

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