「アイナと死人使いのラゼル2」
煌々と輝く月の下、アイナは死人使いのラゼルと激闘を繰り広げていた。殺意と殺意。鉄と鉄が音を鳴らして、ぶつかり合い激しく火花を垂らしている。
「くっ!」
「どうした? どうした? 先ほどまでの威勢はどこに行ったんだ!?」
ラゼルが卑しく口角を上げた。身体能力は竜吾の援助を受けて、彼女の方が遥かに上だ。しかし、手先のテクニックなら相手の方が一枚上手だった。
「ほう。やはり実力は妹より上手だな。お前の妹は実力をこそそこそこにはあったが心が弱かった。殺される前、赤子のように泣き喚きながら、助けを乞うて来たぞ」
その時のことを思い出したのか、ラゼルがなんとも気色の悪い笑みを浮かべた。
アイナはこの上ない不快感を抱きながら、剣を叩きつけた。この畜生を今すぐに斬り倒してやりたい。
その思いが脳から手足へと駆け巡り、剣に気がこもっていく。
「げりゃあああ!」
アイナは凄まじい速度で剣をさばいていく。実力はほぼ、互角。なら最後に勝負を決めるのはこの戦いに込める想いだ。
戦場で散り、死後もその尊厳を踏みにじられる哀れな同志達に報いるため、自分を慕ってくれる存在の未来を守るため、彼女は迷いなく剣を振るう。
「まっ、待て! 殺す気か!? 死体といえどもお前の妹だぞ!?」
彼女の怒涛の攻撃で追い詰められたのか、ラゼルが無駄口を何度も叩いた。分かっている。妹を再び、斬らなければいけない。
そうじゃなければ今、手に持っている大切な存在を失ってしまう。
「斬るよ! 仲間達を守りたいから! 竜吾!」
『任せて!』
竜吾がさらにマナを追加してくれた。体の芯から温かくなり、力がみなぎってくる感覚がした。
「お前達!」
「キエエエエエエ!」
「ギャオオオオオ!」
ラゼルが声を荒げると、ゾンビと化した兵士達が割って入って来た。目は白濁し、口先からはヨダレを垂らしていた。今でこそこのような哀れな姿だが、かつては国を守る事に誇りを持つ、気高い兵士だったのだ。
「みなさん。安らかにお眠りください」
顔を見た時、血色のある人間だった彼らと重なり一瞬、躊躇いそうになった。それでもラゼルを討ち取るために剣を振るった。彼女にとってそれがせめてもの誠意だったのだ。
ゾンビを打ちふせると、そのままラゼルに殺意を向けた。絶対に許さない。鋼のように硬い怒りが彼女の手足を動かす源となり、突き動かしていく。
「地獄に落ちろ。亡霊」
彼女は自分でも計り知れない想いを込めて剣を振り下ろした。光り輝く刃が悪霊によって汚れた妹の体を切り裂いていく。
「ギェェェェェェェ!」
魂ごと切り裂いたのか、ラゼルが聞くに耐えない程の悲鳴をあげながら、光に包まれて消えた。
「さようなら。カリナ」
カリナの体も光を浴びて、崩れていく。やがて浄化されるように光の中に消えた。
目の前にいたのは妹ではない。そう分かっていながら、彼女は妹の今際に付き添えなかった事を少し、悔やんだ。
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