「トカゲと平和な日常」
晴れ渡る空の下、竜吾は木陰のそばから木刀で素振りをするアイナを眺めていた。
竜吾は木陰からアイナの特訓を見ながら、今朝に見た夢を思い出していた。自分達は龍神の恩恵により繁栄した。龍神はこの世界の聖竜メノールとおそらく同一。
竜吾が知らない間で先祖が異世界と繋がっていた。改めて突きつけられた事実に彼は動揺していたのだ。
「竜吾!」
自身の名前を呼ぶ声がした。顔を上げると手ぬぐいで汗を拭きながら、アイナがこちらにきていたのだ。
『連中は終わり?』
「うん。もうお昼時だしね」
ふうっと肩の力を抜くようなため息をついて、彼女がその場で腰を下ろした。
「おーい。アイナ!」
聞き覚えのある声に呼ばれ、振り向くとレイニス・アレスティアが手を振っていた。
もう片方の手には小さなカゴのようなものを持っていた。
「こんにちは。殿下。殿下も今からお昼をお召し上がりに?」
「ああ、そこで良かったら君達も一緒に食べないか」
レイニスがゆっくりとカゴを開けた。竜吾は目を見開いた。そこには色とりどりの料理があったのだ。
竜吾、アイナ、レイニスはその場で腰を下ろし昼食を食べることにした。
「いや、やはりうちの使用人が作る軽食は上手いな」
「美味しいですね。卵がふわふわしていて、とても食べやすいです」
二枚のパンの間に卵や野菜が挟まっている。竜吾は自分が元いた世界で言うサンドイッチを連想した。
「竜吾も食べよ」
竜吾は頷くと、彼女が食べやすいように小分けにしてくれた。口の中でとろけそうなほど、ふんわりとした卵とシャキシャキとした歯ごたえの緑野菜が見事にマッチしている。
『すごく美味しい』
「そうか、良かったよ」
レイニスがお得意の眩い笑顔をこちらに向けてきた。王子として日頃から堅苦しい生活を送っている彼にとって、親しい人間と過ごす時間はとても大切なのだ。
アイナの方に目を向けると頬や口元が緩んでいる。
彼女自身もおそらく、愛しい男性と時間を共にできる事に喜びを抱いているのだろう。長い間、彼女を見てきた竜吾にはすぐにそれが分かった。
剣を握り、勇者を目指しているとは言え、彼女も一人の年頃の少女。気になる異性を前にして、普通でいられるはずがない。
「最近は魔王の一件もあって、ろくに休息も取れていなかったから。魔王は封印されて、数百年。つかの間の平和を享受していた精算が今、きたんだ。終わりにしたいね」
レイニスがそう言って儚い笑みを浮かべた。一国の王子といえど彼もアイナと年があまり離れていない青年だ。
普段は気さくに接してくれるが、内心は不安でしょうがないはずである。今、この瞬間も何が起こってもおかしくないのだ。
「殿下。何か思いつめそうになったらいつでも言ってください。話ならいくらでも聞きます」
アイナがレイニスの手を握り、そう言った。
『レイニス。君も王子として、色々、しんどいだろうにいつも僕達の心配をしてくれてありがとう。だから君に何かあったら力になりたい』
竜吾は自分の思いを筆跡に強く込めた。
文字に目を通したレイニスが驚いたように目を見開いた後、にこやかに笑みを浮かべた。
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