「トカゲと安らぎ」
ゾンビを討伐した後、竜吾はアイナとともにアーノルドの元に向かった。すぐさま、兵士を呼んでゾンビの遺体は回収されることになった。
「まさかゾンビが街中に現れるとはな」
「ええ、こんな昼間に、しかも街中で遭遇するとは思わなかったです」
三体のゾンビは袋に積まれていく。このまま騎士団本部に輸送されて解剖が行われるのだ。
「それと私が路地街まで行ったのはある人物を追いかけていたからなんです」
「ある人物」
「フードを被って素顔は見えなかったんですが、不意に見えた隙間から青い髪が見えたんです」
アイナの発言を聞いた瞬間、アーノルドの表情が強張った。おそらく彼女の言おうとした内容を察したのだろう。
「なるほど、そういう事なら念入りに操作する必要がある。カリナ・フリード。フリード家の当主の殺害及び、ゾンビを呼び出し実の姉を攻撃した。逮捕するに十分な要素だ」
「よろしくお願います」
アイナが目を閉じて、誠意が伝わるような美しい一礼をした。その後、竜吾達は昼食を取る気になれず、宿舎に戻った。
その日の夜。竜吾はアイナと共に自室にいた。肩の力の抜き、明日何をするか考えてながらも、路地裏の一件についても思考を巡らせていた。
ふと、アイナの方に目を向けると眉間にしわを寄せていた。おそらく竜吾と同じ事だ。
『路地裏の事、考えているの?』
「うん。まあね。不可解なことが多くて」
王都の外壁や正門は日夜問わず騎士団が警備している。外部の人間が侵入を掻い潜るのはほぼ、不可能。
『既に潜伏している可能性があるかも』
仮に侵入していたとするといつなのか。
「もしかしたら父が殺された時に侵入されていたのかも」
犯人が見つかっていない以上、可能性が挙げられるとしたらその線しかない。
『とりあえず、今日は眠ろう。今日はあんな事があって疲れているはずだ。後日、考えればいい』
「そうだね」
竜吾はアイナに眠るよう促した。今の彼女には休息が何より必要だ。
「おやすみ。竜吾」
『うん。おやすみ』
彼女にそう告げると、竜吾は眠りについた。
ぼんやりとした意識の中、白い靄の包まれた空間にいた。
「ん、ここはどこだ」
すると霧がゆっくりと切り開かれて、見覚えのある景色が見えた。祖父母の家と立派な庭である。
竜吾は空中から荘厳な雰囲気が漂う日本家屋を眺めていると、二つの人影が見えた。
幼い頃の自分と祖父である。今は亡き祖父の元気そうな姿を見て、竜吾は涙が溢れそうになった。
「おじいちゃん。あの池はなんでしめ縄が張っているの?」
「あそこにはな。龍神様が眠っているんじゃよ」
「りゅうじんさま?」
幼い竜吾が小首を傾げると、祖父を皺が刻まれた顔で笑みを作った。
「昔な、わしらのご先祖さまが龍神様を助けたんじゃ。そして、龍神様はそのお礼として、裕福な暮らしができるように金銀財宝をわしらのご先祖様に与えてくれたんじゃ」
「りゅうじんさまってすごいんだね」
幼い竜吾が嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ああ、今、こうして立派な家や幸福な生活ができたのは龍神様のおかげと言っても過言じゃない」
祖父が暖かな目を竜吾が飛んでいる空に向けた。今の竜吾の姿が見えているわけではなさそうだ。
「さあ、行こうか。おばあちゃんがおはぎを用意してくれているよ」
祖父が踵を返すと、幼い竜吾がその後をおって、歩いて行く。いつのまにかあまり合わなくなった祖父母。
「もう少し会っておけばよかったな」
そう一言つぶやきながら、二人の後ろ姿を竜吾はいつまでも眺めていた。
目をさますと窓から暖かな陽光が差し込んでいた。一日の始まりを告げる天からの贈り物だ。
欠伸をした後、頬に何かが伝った。ぬぐってみるとそれは暖かい涙だった。
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