「トカゲと不穏な影」



 豪華な雰囲気に彩られた一室。竜吾とアイナは緊張感を抱きながら、着席していた。


 辺りにはアルフォルト王国の王子であるレイニス。騎士団長アーノルド、エルフのレティール、ダークエルフのエーナが在席していた。


 ここに集まったのは数週間の王国とその周辺の警備の結果報告の為である。


「まずは騎士団長。ご報告を」


「はい。我々、騎士団はレティール殿と王国周辺と森を警備にあたりましたが、ここ一ヶ月間、魔物が目撃された例はありません」


「わたしの方でも特に異常はないよ。魔物の足跡や毛の一本すら見つからない」

 アーノルドとダークエルフのエーナがここしばらくの任務の近況をつらつらと報告していく。どちらとも魔物や魔獣とは一切、遭遇していない。


「そうか、何はともあれ皆が無事でよかった。引き続き、警備に当たってくれ」

 レイニスの言葉を皮切り、竜吾を含んだその場にいた者達が一礼した。



 報告が終わり、竜吾はアイナとアーノルドと共に王宮の前にある階段を下っていた。


「魔物がいなくてよかったですね」


「いや、果たしてそうだろうか」

 アーノルドが何かを疑うような表情を浮かべていた。竜吾も内心、疑念を抱いていた。魔物がいないというのがあまりにも不自然だからだ。


 襲撃どころか、目撃すらされていない。魔物が仲間に自分達の存在を報告したのか。何にせよ滞った現状に謎の不快感を抱いていた。


「それと話は変わりますが騎士団長。父の死の真相については」


「ああ、部下に調査させているのだが、証拠を一切、掴めていないんだ」

 数週間前に父を殺害した犯人。そして、未だ消息不明な妹。


「もしかしたらカリナが」

 

『アイナ。辛いだろうけど可能性として頭の片隅に入れておいて欲しいがいい』

 可能性は否定できない。しかし、その解釈は出来れば、認めたくないものだ。

 彼女の気持ちを思えば、複雑な気持ちになる。


「うん。分かっているよ。ありがとう」

 竜吾に礼をいうと、触れればすぐに割れてしまうほどの硝子の笑みを浮かべた。内面と顔の不釣り合いさに彼は胸が痛んだ。


「まあ! 一旦、仕事の事は忘れよう! 今から昼食だ! 私が奢ってやる!」

 アーノルドがアイナの肩に手を回して、快活な笑みを浮かべた。彼なりの気遣いだろう。

『そうですね! お腹すきました』

 竜吾とアイナはアーノルドに連れられるまま、昼食をとる事にした。



「この近くに私イチオシの店があるんだ」

 竜吾はアーノルドの言う料理屋を楽しみに進んでいた。ここのところは王都や森の警備ばかりだったのだ。


 街でゆっくりと食事をするのも悪くないと竜吾は思った。


『食事楽しみだね』


「うん」


「もうすぐだからな」

 アーノルドに導かれるまま、ついていくと竜吾は突然、強烈な視線を感じた。視線を感じる先に目を向けるとにフードを被った人が見えた。


 木陰で腰を下ろしており、ゆったりとしている様子である。一見はごく普通の旅人かと思わせるような風体だ。


しかし、素顔はよく見えないが、何やらねっとりとした絡みつくような視線を感じるのだ。


『アイナ』


「ん? 何あの人」

 アイナも何かに気づいたのか。目を細めてフード姿を見つける。するとフード姿の人が静かに立ち上がった。


 竜吾はアイナと顔を見合わせた。フードの隙間からアイナと同じ青い髪が見えたのだ。


 アイナがいきなり、走り始めた。竜吾は必死に彼女の肩に捕まった。


「おっ、おい! アイナ君! どこへ!」


「申し訳ありません。すぐに戻りますので!」


「ごめん! 竜吾! でももしかしたら!」

 フード姿をひたすら追いかける。横目で見るアイナの表情は真剣そのものだ。

 彼女の言いたいことは分かる。ただ、あのフードに隠された素顔は確かめなければいけない。


 仮に頭で浮かべている存在と同じだった時、おそらく聞きたいことが山ほどあるのだ。


 どこで何をしていたのか。父が殺された事を知っているのか。彼女の足取りと荒い呼吸がどんどん早くなっていく。


「待って! 待って!」

 角に近づいた瞬間、竜吾は強烈な殺意を感じた。話せないので竜吾はアイナのほおをつねった。


「痛っ! どっ、どうしたの!」


『角から殺意を感じる』

 竜吾はアイナに伝えると、彼女の目つきが変わった。腰に携えた剣に手をかけた。


「あうあああ!」

 すると奇声を発しながら曲がり角からゆっくりと三人が出て来た。しかし、目は白濁しており、生気がまるで感じられない。


「ゾンビ!」

 三体のゾンビが竜吾とアイナの前に現れたのだ。予想だにしなかった事態に戸惑っているとアイナが静かに剣を抜いた。


「うああうお!」

 赤ん坊のように拙い声で勢いよくこちらに走って来たのだ。


「竜吾、しっかり捕まっていて!」

 アイナが瞬時に迫り来るゾンビに剣を降った。一体、また一体と凄まじい速度でゾンビを斬り伏せていく。


「ギャオオオオ!」

 ゾンビ達が奇声を上げながら、倒れていった。


『流石だね』


「ええ、なんとか」

 竜吾はすぐに辺りを見渡してフード姿を探した。しかし、その姿はどこにもなかった。どうやらゾンビは自分を巻くための囮だったようだ。


『アーノルドさんに報告しようか』


「うん」

 竜吾はアイナとともにこの一件を報告する為、アーノルドの元へ向かった。




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