「トカゲとダークエルフのエーナ」

 辺りがほんのり茜色に染まっていく頃、竜吾とアイナは街の中にある落ち着いた雰囲気の飲食店で腰を下ろしていた。


 向かいの席には褐色の肌が特徴のダークエルフのエーナとエルフのレティールが座っている。


「それで話って何ですか?」


「そのトカゲとどういう関係?」


「どうって。ただの仲の良い友達ですよ」

 アイナが当たり障りのない普通の回答を返した。竜吾にとっても彼女は退治な友達である。


「では質問を変えます。その子とどこで出会いましたか?」

 エーナが別の質問をアイナに尋ねた。気のせいだろうか、質問する彼女の目が少し鋭くなっている気がした。


「えーと数ヶ月前に魔泉に浮いているのを見つけました。そして、魔物と戦っている際にこの子に力を貸してもらって、それから友達になったんです」


「なるほど」


「何か思い当たる節でもあるの?」

 怪訝な表情を浮かべたレティールがエーナに問いかけた。


「私は過去に勇者アレフ。つまりアイナさんのご先祖様とあった事があるの。そして、聖竜メノールとも」

 エーナが竜吾の方に目を向けた。竜吾自身、何となく予想が付いていた。


「竜吾君。貴方からは聖竜メノールと同じ匂いと気配がするの。一体、何者なの?」

 その場にいた全員の視線が竜吾に向けられた。竜吾自身、自身が聖竜メノールの体になっている事は何となくだが分かっていた。


『信じてもらえるか、分からないけど全て話すね』

 竜吾は自分の経緯と知りうる事の全てを打ちかけた。自身は元々、人間でこの世界の存在ではない事。祖父母の実家の池からこの世界にきた事。





 話し終えた後、周囲は様々な反応をしていた。アイナは困惑し、エーナはどこか得心したような表情。レティールは動揺しているようにも見えた。

 

「なんでそんな大事な事、今まで言ってくれなかったの?」

 アイナが少し、寂しそな表情を浮かべた。無理もない。今日までずっとそばにいた存在が重大な秘密を抱えていたのだ。


『言っても信じないと思った』


「でも」

 青髪の少女がそう一言、呟いて顔を伏せた。彼女を嫌っていたわけではない。

 しかし、別世界が存在する。自分はそこからきた人間と言っても単に気が狂った思われるだけだろう。


「確かに信じがたいが、嘘をついているようにも見えない。現に聖竜メノールは魔王との激闘を終えた後、火葬されたアレフ・フリードとは違い消息を絶っている」

 エーナが顎に手を添えながら、思案している。

「もし、魔泉で傷を癒している内に竜吾の世界に移動したとなると辻褄があう」


「でもそんな事ってあるの? 別の世界があって、そこに移動するなんて事が」

 レティールが眉間に皺を寄せて、腕を組んだ。


「でも、彼が嘘をついているようには見えない。それに魔泉は未だに謎が多い。我々もマナの吹き溜まりとしか分かっていない」

 エーナが再び、竜吾の方に目を向けた。アイナは何か葛藤しているような様子だった。


『信じられないのも無理はないよ。でも現に僕はこうして、意思疎通ができるのはきっと人間である僕の意思が働いているからだ』

 竜吾はメモ帳に必死に殴り書きで胸の内を明かした。


『あとアイナ、今まで黙っていてごめん。決して悪意があったわけじゃないんだ。ただ君に奇異の目で見られるのが怖かったんだ』


「うん。私こそ少し問い詰めるような言い方して、ごめんね」

 アイナの口から謝罪の言葉が出てきた。これで彼女に対する嘘はない。より一層、信頼関係が深まっていくはずだと竜吾は確信した。





 竜吾とアイナと別れたあと、エーナとレティールは二人で月を見ながら家に夜道を歩いていた。


「しかし、本当に信じるんですか? 人間を」


「レティール。君が人間に対して憎しみを抱いているのは知っている。でも今はそれを抑えて、協力してほしい。今回、魔王が復活しているとなると生態系にまで影響を及ぼしかねない」

 エーナが真剣な表情でレティールに語りかける。


 勇者アレフと聖竜メノールが魔王と激闘を繰り広げているのを見たからこそ、魔王の恐ろしさを彼女は理解しているのだ。


「それに勇者の子孫と聖竜の転生体。実に良いじゃないか。もしかすると本当にあの二人は世界を救えるかもしれないよ」

 そういい、褐色肌の少女が無垢な笑みを浮かべた。その様子を見て、レティールは僅かに不安そうな表情を浮かべながら、呆れたような笑みを作った。




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