「トカゲと会議」

 その日も竜吾は夢を見た。しかし、今回は空を飛んでいない。近くで二人の人物が会話をしているのをまじまじと眺めているような光景だ。


 一人は青い髪色の端正な顔立ちをした若い青年。もう一人は褐色の肌をしたエルフの女性がいた。


 おそらく以前、図鑑で読んだ魔族とエルフの混血種。ダークエルフの類だと竜吾は思った。



「ではそこが魔王の根城という事だね」


「ええ、おそらくここに奴がいます。その証拠に魔物が多く生息しています」

 ダークエルフの言葉に青髪の青年が頷いた。


「必ず、魔王を、ヴァーレスを倒してください! アレフ、メノール」

 彼女が青髪の青年と竜吾の方に目を向けて、そう言った。竜吾は頭がこんがらがった。


 彼女は一体何者なのか。そして、彼女の口からアレフ。メノールという単語が出てきたのだ。


 もしかすると今の自分の正体は。竜吾はどこか確信に近づきそうな予感がしたところで目が覚めた。


 


 晴れ晴れとした青空の下、竜吾はアイナとともにアレスティア王国の王宮に向かっていた。


 なにやら重要な会議のようなものがあるらしく、二人にも参加してほしいとア騎士団長のアーノルドから伝えられた。


『一体、なんだろう?』


「さあ、アーノルドさんも深くは話さなかったしね」


 しばらく進んで行くと目を見張るほど美しい巨大な建造物が見えた。この中でレイニスが日夜、公務に励んでいるのだ。


 白い大理石で固められた廊下と進んで行くと、奥に大きな扉が見えた。体格の良い兵士が二人、立っていた。


 

「竜吾様とアイナ・フリード様ですね。是非、こちらへ」

 竜吾達を見るなり、一礼してきた。大きな扉がゆっくりと音を立てて開かれた。


 広々とした一室に細長いテーブルが置かれており、いくつか椅子が並べられていた。


 その奥にレイニスが腰かけていた。竜吾達を見るなり、席を立ち嬉しそうな様子でこちらに向かってきた。


「アイナ! 竜吾!」

 

「殿下。お招きいただきありがとうございます」


「硬いね。もうちょっとフランクでいいのに」

 レイニスのおおらかな振る舞いにアイナが笑みを浮かべていた。婚約を前提に付き合っている二人だが、あんまりそんな様子ではない。


 

 突然、廊下の方から二人の女性のやりとりが聞こえてきた。

「全くなんで人間なんかに手を貸さならないのですか」


「まあまあ、これはエルフにとっても大事な事なんだからさ」

 声のする方を見て、竜吾は目を見開いた。そこにいたのはかつて森で竜吾を魔物から救ったエルフのレティールだった。


「あっ」

 相手も気づいたようで少し、驚いたような表情を浮かべていた。


「あら、あの時のトカゲさん。それと人間」


「へえ、知り合いなの?」

 竜吾はレティールの隣の人物を目にした時、目を疑った。夢でみたダークエルフと瓜二つなのだ。


「初めまして。私の名前はエーナ。見た通りダークエルフです」

 エーナがそう言って、快活な笑みを浮かべた。レティールに対して、エーナは好意的な様子だ。


「初めまして、アイナ・フリードです。肩に乗っているのは友達の竜吾です」

 アイナが挨拶をするとエーナが竜吾に目を向けて来た。美しい紫色の瞳だ。


「似ているわね」

 竜吾の姿を見て、蚊の泣くような声で呟くと優しく微笑んだ。


「ここまでご足労いただき、ありがとうございます。王国騎士団長のアーノルドがもうしばらくするとこちらにくるので、それまで席に座ってお待ちください」

 レイニスが丁寧な口調でエルフの客人にそう伝えると、レティールとエーナは席に着いた。


 竜吾もエーナに対して、異様な違和感を抱きながらも席に着いた。数分後、王国騎士団長のアーノルドも合流し、会議が開始された。



「改めて、皆さん。ここに来てくれた事を心から感謝します。今回、ここにきていただいたのは共に協力し、魔物に対抗する為です」

 レイニスの発言で周囲の空気に緊張感が混じっていく。魔物騒動となれば死人が出る恐れがあるからだ。


「近頃、大陸全土で魔物の被害が例年より、多く発生している。アレスティア王国の周辺だけでもかなりのものです」

 手元の配布された書類を確認した時、竜吾はその被害件数の多さに驚いた。


「森の動物などにも被害が出ており、このままでは人間社会だけはなく、生態系そのものにも影響を及ぼしかねない」


「その原因は一体、なんでしょう?」


「不確定ではあるけど、もしかすると魔王が復活したかもしれない」

 エーナの発言で場の空気が凍りついた。竜吾はただならぬ緊張感を若干、戸惑っていた。


「かつて魔王が現れた時も、世界では魔物から被害が多数、発生していた。その線でも私は考えている。そして」

 エーナが付け加えるように各手元に二人の人物が描かれている書類を置いた。


「魔王以外にも警戒すべきなのは奴の側近であるこの二人」


 ノワール。種族は吸血鬼。能力は吸血で血を吸えば、身体能力や再生能力も増す。相手が魔法を使える存在だった場合、その魔法を一時的に使用する事も可能らしい。


 ラゼル。種族は不明。いつも黒いローブに身を包んでいる。能力は死者を復活させる事。現在の火葬文化はこれの対策として根付いたという。


『ラゼルってこの前、言っていた』


「死人使いのラゼルね」


「この二名はかなり強い。魔王が復活したとなるとこの二人も活動していると考えるのが妥当ね」

 エーナが眉間にしわを寄せて、書類を眺める。


「とても強そうだね」


『うん。なんせ魔王の側近だから実力も相当なものだろうね』


「エーナさんには魔物に関する情報をレティールさんは森や山の警戒をお願いします」


「人間に加担するのは大変、不本意ですが仕方ないでしょう」

 レティールがため息交じりに応えた。彼女の人間嫌いは一体なんなのだろうか。

 竜吾は僅かにそんな疑問を頭の中に抱いていた。


「王国騎士団と竜吾、アイナはアレスティア王国の周辺の警備を頼んだ」


「畏まりました」


「それでは以上をもって、会議を終了します」

 レイニスの一言により、会議は粛粛と幕を閉じた。



 会議が終わり、竜吾とアイナは騎士団の宿舎へと戻る道を歩いていた。


「緊張したね」


『うん、これからどうなるんだろう』

 竜吾は内心、不安感が影を見せた。魔物の件、アイナの父。そして、最近よく見る夢。竜吾は周りで少し不穏な空気が漂っているのを感じた。


 何と言っても、今朝の夢に出て来たダークエルフがエーナに瓜二つなのだ。


「あのー」

 背中に声が掛けられて、振り向くとにこやかな笑みを浮かべるエーナと不機嫌そうなレティールが立っていた。


「はい。どうかしましたか?」


「その少し、お話がしたいんだけどいいかしら? 特にそこのトカゲさんと」

 エーナが竜吾を指差して、静かに微笑んだ。


「私は大丈夫ですよ。竜吾は?」


『うん、僕も貴女に聞きたいことがある』

 竜吾はエーナとの話し合いに応じる事にした。




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