「トカゲと金髪王子」
夕日が辺りを染め上げる頃、騎士団の厳しい訓練を終えたアイナはやけに上機嫌だった。
『あのイケメン王子様の事思い出していたでしょ?』
「そっ、そんな事!」
夕日でも隠しきれない程、彼女の頬は真っ赤だった。いつも剣ばかりと向き合っているアイナだが、彼女も年頃の女の子。
端正で若い見た目の青年にまじまじと見つめられては緊張するのは無理もない。
彼女の意外な一面を見る事が出来て、なんだが微笑ましく思った竜吾だった。
翌日、静寂な教室の中、アイナが真面目に授業を受けていた。教員がチョークで黒板に授業内容を書き進める音のみが聞こえる。
生徒達が皆一様に机に向かっている姿に竜吾は既視感を覚えた。この世界に
来る前は竜吾も高校生だったのだ。
すると急に校門の方が騒がしくなってきた。女子生徒の黄色い声のようなものも聞こえる。
「なんの、騒ぎだ。一体」
授業の妨げになったのを不快と感じたのか、男性教員が眉間にしわを寄せながら、窓際に行った。すると目を見開いて、あたふたし始めた。
「なんだなんだ!」
生徒達が一斉に窓際の方に集まって行く。
『一体何の騒ぎだろう?』
「少し見てみようか」
竜吾はアイナと共に席を立った。窓の外を見た瞬間、目を疑った。
そこにいたのはレイニスだった。彼が視線を上に向けた瞬間、目があった。
「アイナじゃないか!」
レイニスが花咲いたような笑みを浮かべて、彼女の名前を叫んだ。どうやらアイナに気づいたらしい。
殿下が名前を叫んだ瞬間、教室の全員から一斉に視線が注がれた。彼女を見るや否や校舎の中に入ってきた。
「姉様! 一体どういう事ですか!? 殿下とお知り合いなんて聞いていませんよ!」
カリナの怒号にも似た質問が飛んできた。
「いや、昨日知り合ったばかりで」
アイナが動揺していると教室の扉が音を立てて、開いた。そこには金髪の整った顔立ちの青年が立っていた。
教室中に生徒達のヒソヒソとした話し声が漂っている。
「やあ! アイナ! この学校に通っていたんだね」
「ええ。それより殿下、何故こちらへ」
「学園長に話があってね。顔出しに来たんだよ。あっ、君もいたんだね。小さなお友達」
『うん。元気そうだね』
「今日も訓練には参加するの?」
「ええ、学校が終わり次第、向かいます」
「そうか」
今日も学校が終わったらそのまま、騎士団の元で訓練だ。内容は非常に過酷だが、これも自身の実力を向上させる為である。
それに騎士団の面々はアイナがミスをしても咎めたり、嘲笑ったりなどしない。皆、とても良くしてくれるのだ。竜吾自身、彼らの人柄の良さは心から理解している。
「また、会おう」
そう行って、踵を返して教室を出た。教室は一斉に賑やかな雰囲気に包まれた。
普段は彼女を見下している連中がまるで手首がねじ切れるばかりの手のひら返しだ。おそらくアイナを通して、あのイケメン殿下と繋がりを持とうとしているのだろう。
妹はというと腕を組みながら、凄まじい形相でアイナを見ていた。明らかな嫉妬である。アイナが静かに目をそらした。
夕暮れ。竜吾はアイナと共に急いで教室を出ようとした時、通せんぼうを食らった。カリナとその取り巻きの二人である。
「ずんぶん殿下と仲が良さそうですね」
「昨日、王国騎士団と特訓していた時に知り合っただけよ」
「王国騎士団とも繋がりがあるなんて、一体どんな手で」
「ごめん。急いでいるから」
「待ちなさい!」
カリナが掴みかかろうとした時、アイナは見切ったかのようにひらりと交わした。竜吾は驚いた。少し前までカリナの動きについていくのでやっとだった彼女が動きを読んでいたのだ。
「本当に急ぐから」
アイナが踵を返して、足を進めた。
『やったね。アイナ』
「ん? 何が?」
『カリナの動きを見切っていたじゃん。特訓の成果が出ているんだよ』
「そ、そうかな?」
照れ隠しをしながら笑みを浮かべていた。
「もっと力を込めて剣を振れ! 腕だけじゃない! しっかりと足腰にも力を込めろ!」
騎士団の元に着くなり、過酷な訓練の開始だ。いつも通り竜吾は近くの木陰で彼女の姿を見ていた。基礎的な実力や体力が上がれば、竜吾のサポートの底上げにも繋がる可能性がある。
ふと竜吾は疑問に思った。アイナに力を与える事が出来るのに、何故自分には使えないのかである。彼女の訓練の最中、考えたものの思い当たる節は全く出てこなかった。
訓練を終えると辺りはすっかり暗くなっていた。竜吾はアイナとベンチで休憩をしているとそこにアーノルドが座った。
「お疲れ様」
「お疲れ様です。団長!」
「そういえば、殿下が今日、学園に来たそうだね」
「ええ、学園長に用事があると聞いて」
「そうか、以前、殿下が来訪された事があっただろう? あの後、殿下は君のことが気になったそうだよ。まあこんなむさ苦しい男達の中に少女が一人、いるんだから無理もないか」
どうやらレイニスはアーノルドから色々とアイナの事を聞いたようだ。もちろん竜吾に対しても理解がある。
竜吾の存在に関しては疑念を抱いていたらしいが、面白さの方が優ったとの事だ。
「そっ、そうですか」
アイナが僅かに顔を赤らめていた。竜吾は暖かい目で彼女を静かに見ていた。 徐々に彼女に周りに理解者が増えていっているのが嬉しかったのだ。
頭上ではそんな彼女を祝福するように星々が輝いていた。
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