「アイナと騎士団訓練」

 晴れ渡る青空の下、騎士達の熱がこもった声が響き渡る。アイナ・フリードは騎士団の面々に紛れて、訓練に参加していた。


 近くでは竜吾が木の陰で彼女の姿をしっかりと見ている。


 アイナ自身、日々の特訓で基礎体力は十分、身についていたが王国騎士団の訓練はそれを遥かに凌駕するものだった。


「もっと声を張り上げろ!」

 騎士団のアーノルドが腕を後ろに組みながら、騎士団を見回している。


 顔にも力が入っており、精悍な顔を一層、引き締まっているように見えた。


 無理もない。以前の魔物との戦いで仲間の兵士が何人も亡くなったのだ。


 その悲しみを乗り越えて必死に訓練に励んでいる。少しでも仲間や町の人を守るためだ。


「アイナ・フリード! 前に出てきたまえ!」

 アイナはアーノルドに名前を呼ばれて、前に出ると木刀を差し出された。


「君には特別訓練として私と剣術訓練を行う」

 彼女の体に緊張感が走った。何処かのタイミングで団長と手合わせすると予想していたが、まさか今とは予想もしていなかったのだ。


「はい!」

 アイナは深呼吸をした後、アーノルドに斬りかかった。しかし、簡単にいなされてしまった。


「どうした! 動きが硬いぞ!」


「まだまだ!」

 ひたすら攻め込むが、いともと容易く流されてしまう。アイナは一度、後ろに下がり距離を置いた。


「ふむ、ではこちらから行くぞ!」

 アーノルドが砂を散らして、風を切るような勢いで走ってきた。


 刀身に叩きつけられた一撃で思わず、後方に飛びそうになった。

「ぐっ!」


「気をぬくな!」

 剣撃の嵐がアイナを次々と襲ってきた。華奢な体が強靭な力によって、右へ左へと踊らされていく。


「もう少し柔軟に! 戦地では規則性のある動きは命取りになる。臨機応変に!」

 剣の一撃と発せられる言葉の重みが心身に響いていく。


 相手は数多の修羅場を潜り抜けてきた歴戦の猛者。実力ではカリナを遥かに上回っている。


 それでいて一つのチームのリーダーである。指揮能力と他者への助言も的確である。そして、アイナはアーノルドの目の止まらぬ猛攻の数々で疲弊し、ついに膝をついてしまった。


「つっ、強い」


「アイナ。君は基礎的な剣さばきは出来ているが、動きが少々硬いな。相手が魔物の場合、予想外の動きをしてくる事が多い。その時に対処できるようにしなければならない」


「はい!」

 アイナは溌剌な返事で応えた。すると周囲から拍手と喝采が湧き始めた。


「ドンマイ! ドンマイ」


「やるじゃないか!」

 騎士団の面々だった。快活な男達の励ましにアイナは思わず、顔を赤らめた。

 照れていると肩に何かが乗る感覚がした。竜吾だった。


『すごかったよ』


「ありがとう」


「おや、随分と盛り上がっているじゃないか!」

 爽やかな声が耳に入り込んだ。アイナは声のする方を向くとすぐに敬礼を行った。


 肩に乗っていた竜吾がいきなり動いたアイナに動揺しているようだった。そして、アーノルドや他の騎士達が一斉に敬礼を始めた。


 そこにいたのはアレスティア王国の王子であるレイニス・アレスティアだった。特徴的な黄金色の髪と見惚れそうになる程、端正な顔立ち。


 

 

「おはようございます。殿下」


「やめてくれよ。アーノルド、騎士団のみんなも。もう少しフレンドリーにいこうよ」

 レイニスがぎこちない笑みを浮かべていると、アイナの元に近づいてきた。

「見かけない顔だね。君の名前は?」


「アッ、アイナ・フリードと申します!」

 アイナは緊張のあまり、口が硬くなった。緊張するのも仕方がない。今、自分の目の前にいるのは一国の王子なのだ。


「僕の名前はレイニス・アレスティア。よろしくね。アイナ!」

 太陽のように眩しい笑みがアイナは一瞬、視界を遮った。


 横では竜吾が眩しさのせいか、肩からずり落ちそうになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る