「トカゲと騎士団」
竜吾はアイナとともに煙の立っている場所に向かった。黒煙の発生源に近づくほど、煙の匂いが濃くなっていく。
それとともにたくさんの男達の怒号にも似た大声が聞こえてきた。
「やれー!」
「そのまま押し込め!」
現場にたどり着くと竜吾は目を疑った。王国騎士団と先ほどアイナが交戦してきた魔物が激闘を繰り広げていたのだ。
周囲を見ると無数の騎士達が血を流しながら、倒れている。まさに地獄絵図と言っても過言ではないほど、悲惨な光景が広がっている。
「これは一体」
次々と騎士がやられている中、一人、魔物と対峙する白髪の男がいた。
「皆のもの、一度下がれ! その間私が引き受ける!」
「アーノルド隊長!」
アーノルドと呼ばれた男が荒れ狂う魔物と互角に戦っている。しかし、その顔には明らかに疲労が見えていた。
このまま消耗戦に持ち越されたらアーノルドに勝ち目はない。
「助けに行かないと! 竜吾! 力を貸して!」
『任せて!』
竜吾はアイナの体に力を流し込んでいく。
緑色の輝きを帯びてパワーアップした彼女が木刀を片手に魔物の元に走った。
「はあっ!」
アイナの振り下ろした木刀が轟音とともに魔物の頭部にめり込んでいく。
「グオオオオ!」
魔物は白目を向いた後、砂のように消えていった。
先ほどまであれほど、苦労していた魔物をいともたやすく討伐する事が出来た。
「ふう」
アイナが一息つくと周囲が騒々しくなり、後ろを振り返った。
騎士団の面々が皆一様に竜吾とアイナを見ていた。
「もう、魔物は消えました。安心してください」
「君は確か、勇者の一族。フリード家のご令嬢だったね」
「はい。アイナ・フリードと申します!」
「私はアレスティア王国騎士団の団長を務めている。アーノルド・ロギスターだ。先ほどは本当にありがとう」
アーノルドがアイナに向かって、敬服したように頭を下げた。
「それとその方に乗っている小さな生き物は?」
「ああ、この子は竜吾。私の友達です」
『初めまして、騎士団長』
竜吾は達筆な字で自己紹介を行った。アーノルドと周囲の騎士達が再び、ざわめいた。
「意思疎通が可能なのか?」
「ええ、さっきのもほぼこの子のおかげみたいなものですし」
アイナが謙遜したような素振りを見せた。
「何か礼をさせてくれないか? 恩人に何も返せないようでは私の矜持に反する」
「そんな,お礼なんて,私も竜吾がいなければアレには勝てませんでした」
竜吾の頭にアイナの細い指が重なる。
「竜吾は何かある?」
竜吾は瞳を閉じて,思考を巡らせる。アイナは勝てないといったが、竜吾自身も一人ではどうにもならない。
力を与えることはできるが、自身に使用する事が出来ない。敵と真っ向から戦う事が出来ないただのトカゲなのだ。すると,竜吾の頭に妙案が浮かんだ。
『それなら,アイナを騎士団の合同訓練に参加させてください』
「竜吾!?」
これまでアイナは一人で訓練を行ってきた。しかし,人間一人ではどうしても限界がある。戦闘のプロである騎士団から色々と教えてもらえば,アイナ自身の実力も飛躍的に上昇すると考えたのだ。
『アイナ,騎士団のみんなに極力してもらえればいまよりもっと強くなれると思うんだ』
「私は構わないけど,どうでしょうか? アーノルドさん」
「そんな事で良いのなら喜んで了承させてもらうよ」
アーノルドは快活な笑みを浮かべた。竜吾とアイナは顔を合わせて、喜びの笑顔を作った。
アイナと竜吾,王国騎士団の面々が会話している光景をフードを被った存在が見ていた。『それ』が自身が使役していた魔物がいともたやすく討伐されたのだ。
「あの力。まさか奴が」
『それ』は何かに感づいた後、静かに森の奥へと消えた。
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