第68話 許せない (つむぎ視点)
《マモルが、疑われてしまう例の事故(ウタに襲いかかったんじゃないか疑惑)の10分ほど前》
リビングでミユさんと思いの外、会話が弾み、結構仲良くなった気がする。
ミユさんはどう見てもノンケだし、このリアリティーショーでは創さんの事が気になるって言っていたけど、話す内容はほとんどマモルさんの事ばかりだった。
ミユさん自身はまだ気づいてないみたいだけど、本当に今、ミユさんが気になっているのは創さんなのかな?
それよりもマモルさんの事が気になっている様にしか見えないけどな?
そんな風に思っていた時だった。
ミユさんと二人でそろそろ部屋に戻ろうと廊下を歩いていた時、床がちょっと揺れた? って思うぐらいの音が鳴り響いた。
な、何?
な、何かあった?
なんだか誰かの部屋で何かがあったみたい。
背中の奥が冷たい……なんだか、無性に胸騒ぎがする。
この音の方向って……ウタのいる部屋だ。
確か、今日の部屋の相手はマモルさんだった気がする。
ウタは大丈夫かな……。
ドクドクドクドクドクドクドク
自分の心拍がどんどん早くなって、余計に気が焦ってしまう。
隣を見るとミユさんの顔色も悪い。
「な、何かあったのかな?」
ミユさんの声と顔が引き攣ってる。
「そうだね、行ってみよう」
そんな風に応えた私だったけどウタの事が心配で、心配で、どうにかなりそうだった。
――――
「マモルさん! どういう事! そこからどいて!」
ウタちゃんとマモルさんの泊まっている筈のドアを開けると目の前のソファーにはウタちゃんの上に乗っかっているマモルさんらしき人の後ろ姿が見えた。
私の声にマモルさんがオロオロしているけどそんな事どうでもいい。
「誤解だ! じ、事故なんだ!」
マモルさんいや、もうさん付けするのも嫌なくらい私の中で感情が燃え上がっていた。
本当は事故だって分かっていた。
本当にウタの事を狙っていたのだとしたら、こんな風に、襲う様にして押し倒したりはしない。
そんな風に考え無しのような行動なんて、しないはずだ。
私はウタの事が好きだ。
だから、ウタの事を思っている人の気持ちにも敏感だ。
私は昔から、ちょっと卑怯かもしれないけど、そんな気持ちに気づいたら、遠回しにウタとその人との距離を取らせたりむしろ私自身を好きにさせてウタから興味を逸らそうと模索したりしていた。
だからマモルさん、いや、マモルが、ウタの事をそういう対象に思っていない事を知っていた。
だけど、私は、ウタに力づくでも押し倒したりできる男の身体を羨ましく思ったのかもしれない。
私は別に男になりたい訳じゃない。
女だからこそウタにそういう対象として見て貰えていると分かっているから……。
自分の中で訳の分からない感情が暴れている。
ウタちゃん、肩が揺れている。
すごく震えてる。
私が抱きしめたい。
怖い思いをしたのかもしれないウタの事を優しく包むように抱きしめたい。
事故だとしてもウタちゃんに、こんな顔をさせるなんて許せない。
ウタちゃんがゆっくりと起き上がりソファーに座り直した。
「ウタちゃん、大丈夫だよ。私がいるからね」
私はウタに安心させるように笑いかけてマモルの事を睨みつけた。
事実がどうだろうと関係ない。
ウタにこんな顔をさせたことが許せない。
だけど本当は……こういういざという時に何も言えない堂々とウタの事を守ることが出来ない自分自身に、私は一番腹を立てていた。
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