第67話 遠い存在だったはずなのに、コレは夢か? (創視点)



 渉の事を好きって意識してからはなんだか、色々な事が気になり出してしまったし、なんだか上手く喋れない。



 どうしよう?



 そんな風にドギマギしていた俺だったが、流石、人生経験が豊富な渉はこんな風に気まずくなってしまうはずの、男二人な状況でも上手く良い話題をふってくれる。




 先程創作サイトの話になった流れでそのままどんな物語を書くのか、まずはどのあたりから作り始めるのかとかそういう話になった。



 そうなんと渉もやはり物語を書いているらしい。



 しかもだ。すでに創作サイトにも投稿しているみたいだ。


 ある意味、俺よりも先輩だった。


 投稿サイトに登録しているという事はもう読者さんがいるという事だ。



 俺なんて作家になりたいなんて心では思っていても、今まで、ただ書いているだけで、中々行動にうつせなかった。



 今回の応募はある意味、光留(妹)に背中を押してもらった形になったんだよな。



 今回結果を残せなかったとしても……。




 ドキドキドキドキ。



 まだ自分の高鳴っている胸に不自然にならない程度に軽く手を添える。



 こんなに心が揺れる相手に出会う事ができた。




 このリアリティーショー番組の撮影現場で俺はさまざまな感情を体感し、勉強する事が出来ている。



 それは、今回の事が結果に残せなくても、とてもとても価値がある事の様な気がした。



 渉にもしこのまま会えなくなってしまって、とてもとても遠い、手の届かない存在になってしまったとしても……渉が画面の中から居なくなる事がなければ、俺は渉の事がもう見れなくなる訳じゃない。




 

 それにしても……。



 投稿サイトか……。




 俺には実はちょっとしたトラウマがある。



 俺は昔からの温和な性格が幸いしてか、ある程度の友達がいた。



 その中でも結構いつも俺の近くにいた親友って言って良いのか分からないがそういう存在がいた。




 そいつからヒョンな事で俺の創作ノートが見られて、その時にかなり揶揄われてしまったのだ。



 それ以来、極力人に見られない様にしてきたし、少しばかりあった自信がすっかりしぼんでしまった。



 それでもやはり書く事が好きで、自分の書く物語もキャラクターも大好きで書く事自体、止めることも出来ないし、夢を諦める事も出来なかった。




「良いサイトとかやり方とか教えてやるよ。連絡先とか教えてもらっても良いか?」



 渉からそんな言葉が聞こえてきて、耳を疑った。


 訳がわからないまま、うろたえる様に返事をしていたらいつの間にか連絡先交換が終わっていた。



 な、何が起こったんだ?




 渉とはこのリアリティーショーが終わったらなんだかんだ言ったって結局、手の届かない遠い存在になってしまう、そう思っていた。



 俺のスマホから聞き覚えあるメールの着信音が響いて、そこには『宜しく』とそっけなくだけど渉からのメールが届いていた。



 俺も慌てて『こちらこそ』と返信したと同時に渉のスマホの着信音が鳴った。



 ちゃんと渉から届いているし、俺からのも届いたみたいだ。



 こ、こんな簡単に連絡先を教えてしまって大丈夫なのか?



 そんな風に思いながらも俺の頭の中は乙女の様に舞い上がっていた。



 遠い存在だったはずなのに、コレは夢か?



 そんな俺の頭が、覚めてしまう様な大きな音が隣の部屋から響いてきた。



 ど、どうしたんだ?


 いったい何があったんだ。


 俺は渉と顔を見合わせた。

 渉も表情を少し変えて驚いている様だった。



 隣の部屋って言ったらマモルとウタさんが今日は泊まっていたんだっけ?



 俺達はスマホをポケットにしまって隣の部屋に向かって歩き出した(もちろん俺は創作ノートもしっかりカバンにしまった)。



 歩き出したと言ってもまだ俺達の部屋の中だ。

 少し驚く事が続いたせいか俺はかなり気が動転していたのかもしれない。

 そんな俺は足をもつらせて転びそうになった所を渉に抱きしめられる様に支えられた。



 俺、今日、こんな事ばっかりだ。


 渉の逞しい筋肉質な胸からは俺の心臓と同じくらい大きな音が響いている。


 渉も緊張しているんだ。


 俺と同じなんだ。


 ドキドキドキドキドキドキドキドキ



 そう思うと余計に動悸も激しくなる。


 渉の首筋からシャンプーのいい香りがして、余計におかしくなりそうだ。


 って、こんなことやっている場合じゃないのに、身体が吸い付いた様に動けない。



 そんな風に固まってしまっていた俺だったが隣の部屋の事も気になるし、なんとか渉から自分の身体を離した。



 暫く気まずいような、だけど甘い空気が続く様な錯覚におちいったがなんとか振り切り俺達は隣の部屋に向かった。



 

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