第64話 ルール違反? (創視点)

《マモルが、疑われてしまう例の事故(ウタに襲いかかったんじゃないか疑惑)の30分ほど前》

 




 久々の創作に俺は夢中になっていた。


 blなんて初めて書くのに、相手役を渉そっくりにしてしまって、なおかつ主人公の性格も自分に似せすぎたせいか感情に熱が入る。



 今までも、恋愛モノはもちろん書いてはいた。



 だけど、実際自分で体験していなかったから理想を詰め込んだ形になってしまっていたし、リアリティーにはかけると自分自身で思っていた。



 今は主人公の気持ちが痛いほど分かるせいか、筆が進みすぎるくらい進む。



 先程、ここは渉が戻ってくる部屋でもあるし、プロットぐらいしか書けないななんてそう思っていた事も忘れて俺は創作に没頭していた。



 没頭と言ったって流石にノートパソコンを開いた訳ではなく、プロットの横に少し物語を走り書いた程度だったんだが……。



 だが集中しすぎて文字通り物語の中に飛んでしまっていた俺はココが何処かも、どういう状況かも忘れてしまっていた。




 気がついたのは、背後に気配がし自分の頬に息がかかるくらい近くに端正な顔があると分かってからだった。



 俺は大慌てでノートを閉じた。



「わ、渉!」


 びっくりしすぎて声のトーンが高くなる。



「ワリーびっくりさせたな」


 そう言って俺のすぐ近くから身体を離した後、柔らかく渉が笑った。



 昨日までの憎たらしい嫌味な笑顔と全く違う。



 その笑顔を見ると誤解してしまうそうな程の優しい笑顔だ。



「創は名前通り創作が好きなんだな」



「ああ。まあな。って、こういうのってルール違反してじゃなかったか?」



 俺は恥ずかしくて早口でそう言ったんだが、コレって、直接ではないけど、自分の目指すモノを言っている様なもんなんじゃないだろうか?


「どうだろう? まあ聞かなくても俺は創の目指している夢を知っているからな」


 そう言って渉は意味ありげに笑った。


 俺はその怪しげな表情にまたもや鼓動が早くなり、言葉を失ってしまった。



 確かに先程の入浴前のこの部屋での俺の態度を見たら、俺の好きなものや好きな事なんか全部知られてしまってもおかしくないのか?



 あの時、俺は一体、何を話してしまっていたんだ?


 確か、渉があまりにも俺が作った物語を褒めるから(流石に俺が書いたとは知られてないだろうが)嬉しすぎて頭が完全にお花畑になってしまっていたから、正直どこまで喋ってしまったか覚えていない。




 だけど自分で実際書いたり、創作をする事が好き、なんて、言っていないと思うんだが……。




 坂下さんはこのリアリティーショーのルール説明の時、自分の目指すモノを言ってはダメだと軽い感じで言ってはいたが、それは言ってしまうと罰則とかあるのだろうか?



 他のリアリティー番組では、それぞれに色々なルールがあって、よく『脱落』とか目にするが(光留に色々と見せられて勉強させられたんだが)今回は今の所、そういうルールは聞いていない。




 とにかくやっとこうして渉と普通の会話ができる様になったというのに、連絡先も交換しないまま会えなくなるなんて、気持ちを自覚した今では辛すぎる。


 こういう話のきっかけからもっと仲良くなれたら......。


 そう思ったりはするけど......。


 それに、まだ撮影が今日で終わりな訳じゃないけど、今晩のチャンスを逃したらこうして二人きりで話すチャンスなんて、なくなってしまうかもしれない。



 って、ウダウダと考えてしまっていたけど、俺、せっかく渉が話しかけてくれているのに、また何も喋ってないんじゃないか?




 渉の表情がどうしてこんなに柔らかくなったのかは分からないが、今は渉にとって俺は嫌いな対象から普通の、もしかして友達とか仲間とか思ってもらっているのだろうか?



 そうだとしても、自分の目指すモノを知られてはダメだとルールで言われている以上とりあえず話を逸らした方が良いよな?



 脱落するなんて聞いてはいないけど、ルールは守らないとどんなしっぺ返しがあるか分からない。




 俺はまだ渉といたいんだ。



 そう言えばさっき、渉はいつから後ろにいたんだろう?

 ノートの中身は、み、見られてないよな?



 とにかく何か喋らないと......。


「渉は俺と同じで読む事も好きみたいだったけと書いたりもするのか?」



 って俺、何を聞いてしまってるんだ?



 こういうのもルール違反かもしれないのに、あーあ、渉、答えなくても良いぞ! 俺は自分の答えから気を逸らそうと思って聞いただけだからな。



「ああ、書いてるよ。って言ったって全然、本格的じゃねーんだけどな。今って気軽にネットとかで、投稿できたりするしな」



 ああ、答えちゃったよ。


 でも、渉の様に軽い感じで言えば、それが目指しているものとも思えないな......。


 なるほど、逆にサラッと答えてしまえば良かったのか。



 確かに、今は投稿サイトが主流だよな。


 俺は目指しているわりには自信が持てなくて、投稿自体もした事がなかったんだけど……。



 渉のあの言い方はもしかして渉は自分の書いたモノを投稿サイトに投稿していたりするんだろうか?



 もしかしてどうにかしてペンネームを聞き出せば、このままもし離れてしまってもコッソリ見続ける事は可能なんだろうか。



 ちゃんとした連絡先を聞いとかないとまた会えなくなってしまうと、何処かで分かってはいたが、中々自分に自信が持てない悪い癖が出てしまい、また逃げ越しになってしまっている俺がいた。


 

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