第62話 コレって 最悪な状況じゃないか? (マモル視点)
渉が上がってから少しして俺も湯船を出た。
どうしてこんなにむしゃくしゃするのか分からない。
俺は自分の興味のない事には無関心だったはずなのに……。
俺は手早く支度を整えて洗面所を出た。
もちろんウタさんの忘れ物であろうこの黒いパスケースはスエットのズボンのポケットに入れてある。
早く部屋に戻ってウタさんに渡さないといけないんだけどなんだかあの渉の様子を見ていると、何故だか創と渉を二人きりにしてはいけない様な気がした。
二人は男同士だ。
自分が創をそんな風に思うからって、渉まで創の事がそんな風に見える筈はない。
なのに……。
創は男なのに、なんであんなに変に色気があるんだろうか?
昨日よりも更に色気が増した気がする。
今日は特に浴室ではずっと目を細めていたからかそんな姿がいつも以上に色っぽく見えた。
渉が創を見る目も男が女を見る様な目をしていたし、俺に対しても昨日よりも、今日の日中よりも敵意丸出しだった。
男同士二人が同じ部屋。
そんなの間違いが起こる筈がない。
部屋にはカメラもあるし、大丈夫な筈だ。
俺が部屋に戻ると、ウタさんはソファーで座ったまま、うたた寝をしていた。
こんな所で寝ていたら風邪を引くだろうに……。
俺は自分が眠る予定のベッドから毛布をはぐりウタさんにかけた。
ウタさんのベッドからもってきても良かったが女性の眠る筈だった布団を勝手に触るのも気が引けたからだ。
抱き上げてベッドに運ぶのは、仲が良い訳でもないのにそこまでするのもおかしな話だしな。
ウタさんに毛布をかけた時、隣の壁の向こうから声がした。
俺はその声が誰か分かってしまい、心が騒ついた。
そうだ。
今まで意識していなかったから気づいてなかったが隣は今日は創と渉の部屋だった。
声のトーンは楽しそうに聞こえるが何を言っているか聞こえない。
な、何を喋っているんだろう?
この部屋は丁度、創達の声のする方の壁には人が横になれるぐらいの大きめのソファーとその並びには机が置いてあった。
俺はウタさんの事は失礼だけど女性として全然意識していなかった。
というか今の俺には、俺の頭の中には創しか見えてなかった。
俺はソファーの上のウタさんが眠っている場所から、座った人一人分ぐらい空いた所にウタさんが起きない様にソーっと座り壁伝いに耳をすませて壁向こうで話している二人の声に耳を傾けた。
『ハハハッ』
創の笑い声だ。
でもやはりあまりよく聞こえない。
俺は行儀が悪いが思わずソファーの上に登り更に壁に耳を寄せた。
「ん?」
その声は俺の横から聞こえた。
ウタさんが起きた、と思った時、俺自身が俺の現状にびっくりした。
俺は女性がうたた寝しているソファーによじ登っている。
少し空間は空いている。
俺は壁の向こうの話が聞きたかっただけだ。
だけどウタさんはそんな事は知らない。
俺は女性の前で何をやっているんだ!
しかもこれって、ご、誤解されてしまう。
案の定ウタさんはビックリした様に飛び起きた。
俺も「違う! ち、違うんだ」と言い訳しながら大慌てしたのがいけなかった。
不運は不運を呼ぶみたいだ。
俺は少し足を滑らせてバランスを取ろうと踏ん張ったが上手くいかず、気がつくと大きな音をさせてソファーの上に倒れ込んだ。
下には柔らかい感触。
かろうじて押し潰したり下敷きにしたりはしなかったがウタさんの上に覆いかぶさる形になっていた。
それと同時に今、俺がいる部屋のドアが開かれた。
目の前にはびっくりした顔の女性、つむぎさんとミユさんが立っていた。
コレって最悪な状況じゃないか?
俺はどうしてこうなってしまったんだと思いながらも、こんな所、創には見られたくない……。
誤解されたくない、そう思っていた。
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