第61話 それぞれの夜 (ミユ視点/つむぎ視点)

《ミユ視点》

 


 私は、リビングで一人コーヒーを飲んでいた。

 もう、今日も終わる......。



 ハァー。


 小さく溜息をつきながらコーヒーをテーブルの上に置き体をダラーと椅子の背もたれに預けながら天井を見つめた。



 どうしてこうも上手くいかないんだろう?



 気がつくともう撮影も半分終わってしまってる。



 気になる相手、創さんとは始めだけで全然関われてない。


 そんな状況なのになんだか創さんの表情が柔らかくなってきた気がする。


 もしかして、私の知らない所で誰かと良い感じになってしまったのかな?


 いやいや、今日は創さんは他の女性と関わっていないし……。


 うゔ……。


 本当に今日はチャンスだったのに、もうちょっと積極的になるべきだったのかな?




 だけど……。




 私はそんな事を思っていたけど本当は少しだけ今日は楽しかった。



 課題自体は、どうして私がこんな事しなけれはならないんだろう? そう思う様な事柄ばかりで正直しんどかった。



 しんどかった、しんどかったのよ。なのに......なんで楽しかったんだろう?




 その時浮かんだ顔は今日、私が色々とワガママを言ったのに、全部笑顔で聞いてくれたマモルの顔だった。




 私は多分、今日はすごく、分かりやすいくらい機嫌が悪かった。


 創さん達に何故か置いてかれてしまって、何でそんな事になったのかも分からなくて、むしゃくしゃしてしまった。



 私はいつも以上にワガママ放題だったと思う。



 いつもなら世間体もある程度は気にしていたし、自分の機嫌の悪さも抑え込む事が出来ていた。



 だけど、自分自身の気持ちを抑え込むのはストレスがたまる。





 多分、なんでも心よく言う事を聞いてくれるマモルに私は甘えてしまっていたのかもしれない。


 マモルと過ごしているとどんな自分も受け入れてもらえている気がして、すごく楽だった。



 こんな自分でも良いんだ。我慢しなくても良いんだと思えた。



 知らないうちにマモルの存在が私の中で大きくなっていたのに、自分がワガママ放題に振る舞ったせいで、マモルの気持ちがどう変わってしまったかなんて、この時の私は気づいていなかった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


《つむぎ視点》


 もう、ウタは眠ったかしら?


 私は隣のベッドで寝息を立てているシホさんを少しだけ気にかけながらゆっくりと起き上がった。



 明日から休憩が終わるまでの一週間、ウタと叔父さんの家に行くんだ。


 叔父さんの家ではウタと二人きりになれる時間ももう少し取れるかもしれない。



 ウタが今、この番組の出演者達についてどんな風に考えているのか聞き出さないと。


 それに、出演者以外にもスタッフさんとか色々な人が出入りしている。


 私の知らない所で、もしかしたらウタに気持ちの変化があるかもしれない。


 ウタに、私以外に気になっている人ができていたらどうしよう......。



 だけど、私……素直に聞けるかな?


 



 もちろんウタは私には自分の事を隠しているから、本当に気になる人の事なんか言わないだろうし、ウタが今まで一途に私を大事にしてくれていた事は知っている。


 でもシホさんも魅力的だし、ミユさんも守ってあげたくなるくらい可愛らしい。



 それに男性も長身でイケメン揃い。


 もちろん、ウタは男性に興味がないと分かっている。


 分かっていても、私だってウタがウタだから好きになったんだし、女とか男とか関係ない。


 それにウタはすらっとしていてスタイルも良い。とても優しいし、きっと男性からも女性からも素敵に見えると思う。



 男性と同じ部屋なんてやっぱり、心配。


 心は男の子だったとしてもウタの身体は女の子だから……。





 私はそっとベッドから降りて、ゆっくりと部屋の外にでた。



 シホさんが起きない様に後ろ手で扉をそっと閉める。



 ウタと今日同じ部屋を使っているのはマモルさんだ。


 マモルさんは優しくて紳士的だからもちろんウタを襲ったりはしないと思う。



 それに今までマモルさんは分かりやすくミユさんの事を見ていた様に見えたから多分大丈夫だと思うけど……。



 どうしよう、どんなに気になっても、ウタ達の部屋に乱入する訳にもいかないし……。



 そんな風に思いながら廊下を歩く。



 心を落ち着かせる為にお茶でも飲みに行こうかな?


 そう思ってリビングの方に目線を向けると少しだけ灯りがもれているのに気がついた。



 もしかして、ウタが居る?



 私はそっーとリビングドアまで近づき、開いている扉から中の様子を伺った。



 ドアから見えたテーブルの前の椅子にダラーと深く腰掛けているのは……。



 ええと、ミユさん?



 ミユさんも眠れないのかな?



 ミユさんとはあんまり喋った事もないし、気まずくなったら嫌だから部屋に戻ろうっーと。



 そう思っていたのに……。



 キィーッ。


 と小さく扉の音が鳴ってしまい、その音にミユさんが振り返った。



 目があった私達は、なんとなく苦笑いしながら「こんばんは」とハモった。



 


 

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