第57話 芸能人と地味なただの高校生 (創視点)



 


 静寂に包まれていた浴室で、渉の息づかいまで聞こえてくる気がしていた。


 渉と目があった俺は慌てて目を逸らしたけど、こんな俺の反応を渉はどう思ったんだろう?




 俺は一体どうしたんだろうか?




 渉が好きだと自覚したから俺はこんな風になってしまったんだろうか?



 身体が熱くて自分の頬を触る。



 お湯の温度で熱くなった自分の掌は自分の熱くなった頬をちっとも冷やしてはくれない。




 その時、そのよく分からない空気感を打ち破るかの様に浴室の扉が開いた。



 そこに立っていたのは現実目が見えにくい俺には分からないが声からマモルだと分かった。



 俺はなんだか悪い事をしている所を友達に見られてしまった様な、自分の渉に対する思いを見られてしまった様なそんな錯覚をしてしまい戸惑っていた。




 マモルは笑いながら「また重なったね。風呂も一緒なんて意外に二人は仲が良いね」そう言った後、洗い場の方に歩いて行った様だった。



 俺はマモルが来た事で、少し冷静になれた気がした。




 確かに今までの俺達を側で見ていたマモルからしたら、俺達は急に仲良くなった様に見えるかもしれない。



 俺自身、渉の事は他の誰よりも気にはなっていたが、その事が中々認められなかった。




 今となっては想いが膨れ上がり過ぎて認めざるをえなくなってしまったが……。




 俺はこんなに渉に夢中になってしまって……番組が終わってしまったら普通の日常に戻れるんだろうか?




 渉は多分、今は同じ出演者として、こんなに構ってくれているんだ。



 この番組が終わると渉は芸能人、俺は一般的な地味なただの高校生。



 夢が覚めた様にまた一日が始まるんだろうな……。



 今日は渉との二人部屋だ。



 渉も本を読む事が好きだと分かった。

 もしかして上手くいけば連絡先を交換したり、この番組が終わった後も友達として会えるなんて、そんなキッカケを掴む事も出来るかもしれない。




 昨日までの渉の態度からはそんな事はとても無理だと思っていたし、俺自身もそんなに渉と関わりたいとも思っていなかった。



 今、番組の撮りは半分ぐらい終わっている。



 明日からは一応、休みに入りそれぞれが自分の家に帰る。

 そして、1週間後にまたこの合宿所に集合して残りの撮影をする予定になっている。




 もしかしたら今晩しか渉と仲良くなるチャンスはないかもしれない。



 両思いにならないと男女ランダムで部屋は決まるからこの先、渉と同じ部屋になるなんて確立的には無いし等しい。



 現在、カップルは見た目的には全然成立していない様に見えるが、休みあけには、皆、本気を出してくるだろう。



 女の子一人一人が皆、個性的で可愛らしい。



 渉を手に入れる為に女の子達は頑張るだろうから、その間をぬって俺が渉と仲良くなるなんて無理だ……。



 その事実に気がついた俺は少し焦っていた。




 渉と離れたくなくなってきてしまった俺は、どうやったらこの先も渉と話ができる関係に持っていけるか、恋愛関係なんかはもちろん無理だとしても、気軽に連絡を取り合える友達関係に持ち込まないと……。




 そうしないと渉と番組が終わったらもう二度と会えなくなってしまう。




 チョコレート好きなあの子と二度と会えなくなってしまった様に、渉とも二度と会えなくなってしまう。



 渉と俺は、芸能人と地味な唯の高校生。



 その事実は変えられない。



 その事実に気がついた俺は焦ってしまっていた。

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