第52話 自分の秘密 (ウタ視点)
どうして自分はこんな場違いな場所に参加してしまったんだろう……。
そもそも、この中で恋を叶えるなんて自分には無理に決まっているのに……。
今日あてがわれた部屋のベッドに座ってマモルさんがこの部屋から出ていったのをハラハラしながら見送った。
自分は普通ではない。
いや、黙っていれば普通で通るかもしれない。
自分には夢があった。
自分はおばあちゃんが昔から大好きだった。
今はもう居なくなってしまったおばあちゃん。
おばあちゃんだけがありのままの自分を受け入れてくれたんだ。
優しいほがらかな声で『ウタ、周りなんて気にするな、ウタはそのままで充分素敵だよ! おかしな事言う奴はおばあちゃんがやっつけてやるからね』そう言いながら細い骨ばった手で自分の頭を撫でた。
自分の中でいつまでも残る温かい優しい記憶。
どんなに嫌な事があっても自分はその言葉で救われた。
自分がおかしいと気づいたのは些細な事だった。
それは自分が好きな色だったり、好きなおもちゃだったり、本当の事を言うといつも、ウタちゃんは違うでしょ?
そう訂正された。
違う。これが良いんだ。
そう言ってもお父さんもお母さんもおかしな顔をする。
どうして分かってくれないんだろう……。
そう思っていた。
そして小学生の時、お母さんに服をプレゼントされた。
それは真っ赤なスカートだった。
明日学校に着て行ってね、似合うわよ。
そう言いながらお母さんは嬉しそうに笑った。
嫌だ嫌だ嫌だ。
そう思っても、そう言ってお母さんが傷つく顔を見たくない。
自分は明日このピラピラした服を着て外に行かなきゃならない。
学校に行かなきゃならない。
恥ずかしい。泣きたい。
どうして?
どうして自分がこんなモノを履かなくてはならないんだ??
そう思った。
自分はその日赤いスカートを履いて家を出た。
カバンにお気に入りの半ズボン忍ばせて。
吐き気がしそうだったけど笑いながら家を出た。
お父さんとお母さんが見えなくなってからちょっとだけ泣いた。
公園のトイレで着替えよう、そう思いながらも歩く足取りは重たい。
恥ずかしい。
自分は何故、こんなモノ(スカート)を履かなくてはならないんだ。何度も何度もそう思った。
だけどその頃には自分はおかしいと気づいていた。
自分は普通じゃないと……。
だから隠さなきゃ。隠さなきゃ。
そう思って自分は必死に自分の心を殺した。
そんな自分の違和感に気づいてくれてありのままを受け入れてくれたのがおばあちゃんだった。
おばあちゃんの前ではありのままで居れた。
行儀の悪い座り方をしたり木に登ったりしてもおばあちゃんは怒らなかった。
そんなおばあちゃんが、優しかったおばあちゃんが少しずつ変わっていった。
始めは小さな変化だった。
少しだけ奇妙な行動をしたり、何度も何度も同じ事を言う。
おばあちゃんは、だんだんだんだん色んな事が分からなくなった。
そして、自分の事、ウタの事をお母さんと間違える様になった。
だけど、優しい所は変わらない。
辻褄の合わない事を言ったりするけど優しさだけは変わらない。
今はもう死んでしまった。
あっけない死に方だった。
悔やんでも悔やみきれない死に方だった。
自分や他の家族が見てない隙にふらっと一人で外に出てしまって、そのまま事故にあった。
自分の夢は認知症高齢者がどこかに一人で行ってしまっても安心して過ごせる、そこいら辺を何気なく歩いている人、お店の店員、そんな人達と一緒に弱い立場の人を街ぐるみで守っていける様なそんな街にこの街をしたい。
この番組に参加したのはその夢がどんなに難しいとしても、何かのきっかけにできないかと思ったんだ。
何も変わらなかったとしても、同じ様な思いを持つ人と出会えるかもしれない、そう思ったんだ。
その夢は住んでいる人達皆の考え方を少しずつでも変える必要があるから……。
自分の独りよがりでは絶対叶わない夢だから……。
だけどこの番組は恋愛リアリティーショー番組。
恋愛をする事によって視聴者を楽しませる事が番組の趣旨。
夢を叶えると言う目的があっても自分にはこの中で恋を叶える事は困難だった。
身体が女性で心の中が男だと思っている自分にはとてもとても困難だった。
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