第53話 偽りの友達 (ウタ視点)
やはり自分で取りに行くべきだった。
なんで自分は忘れ物をしたなんて言ってしまったんだ……。
慌てすぎて言わなくても良い事を言ってしまったんだな......。
忘れ物はなんの変哲もないパスケースだった。
色は黒。
別に見られて恥ずかしいものでもない。
マモルさんがついでに見てきてくれると言っているのに何を忘れたか言わない訳にもいかない。
不思議がられない様になるべく平静を装いながら言ったんだがマモルさんはどう思っただろうか……。
自分が着る服装などの色はなるべく茶や淡い水色などなるべく女性も男性も両方着そうな中間色的なモノを選んでいた。
女物を着るなんて恥ずかしい。
周りにはそれが当たり前だとしても、自分はそれはすごくすごく違和感があって、だからって男モノの服を着たら、自分との身体の線の違いをまのあたりにしてしまう。
だから色ぐらいは……。
そんな風に思う思いと、自分の本心を知られてしまう葛藤。
今は受け入れられる世の中になってきた、そうは言うが、周りの目を怖がる、自分の心はそんなに変わっていない様な気がする。
いつまでも自分は怖がりで弱いままだ。
自分は女性にしては身長もあるし、運良く胸も小さく、ある意味恵まれている。
だけど骨格は隠せない。
やはり男性より肩幅もないし、尻も大きい。
声も高い。
そんな自分だけどパスケースだけは男性モノをもっていた。
男性モノと言ってもシンプルなモノだから言わなければ分からない。
パスケースの中には写真が二枚入っていた。
一枚はもう死んでしまったおばあちゃんの写真。
その下に隠す様に入れていた写真の人物は実は一緒にこの番組に出演している。
紬と自分は幼なじみ、そして紬は自分がずっとずっと好きで、自分はそれを今まで必死で隠してきた。
それは絶対知られてはならないことだったから。
マモルさんはパスケースの中までは見ないとは思う。
見たとしても流石におばあちゃんの写真の下に隠してある紬の写真までは見ないとは思う。
女性だって憧れの女性の写真を持つこともあるだろうけど、その写真は流石に見られて良いモノでは無かった。
写真の中の紬は今よりもう少し幼い。
今でも童顔だけど更に可愛らしい。
しかもソファーで昼寝をしている寝顔の写真。
見られてしまったら見た人には自分の気持ちはバレてしまうかもしれない。
だとしたら紬に見つけられるよりはマシだと思うし、男性が入浴しているのに自分が洗面所まで入って行く訳にはいかないし。
マモルさんがああ言ってくれたのも運が良かったのかもしれない。
今日は自分の為の課題だったのに、全然上手くこなせなかった。
自分自身に納得が行く行動も取れなかったし、なんだか紬と貴幸さんも話とかすごく盛り上がっていた気がした。
紬はいつも太陽の様に笑う。
あの笑顔を見たらきっと男性は皆、紬を好きになってしまう。
可愛らしい見た目だけどやはり貴幸さんは男性だし、紬の笑顔にもドキドキしたんじゃないだろうか?
力も体力も自分とは全然違うし……。
どんなに頑張っても男には敵わない。
なんだか今日は悔しくて悔しくて……。
気がついた時には熱めのシャワーをいつもよりは長く浴びてしまっていた。
自分は身体もあまり強くなくてすぐに酔いやすい。
ぼんやりしてしまっていたからパスケースも忘れてきてしまったんだ。
今日は紬はシホさんと同じ部屋だ。
シホさんも明るくて良い子そうだし、二人は良い友達になれると思う。
ちゃんとした友達に……。
自分は惚れている事を隠して、親友のフリをしている偽りの友達だから……。
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