第50話 俺が喋りたい相手 (マモル視点)
俺は創がリビングから出ていったのを見届けてから自分の部屋に向かおうとソファーから立ち上がった。
今日の俺の部屋の相手はウタさんだ。
一日目、創とミユたんが両思いの部屋になって以来、誰もまだ両思いになっていない。
リアリティーショーはどんな番組もある程度、途中、途中でもカップルができるものだったりするんだけど、今回はなんか皆、見事にすれ違っているみたいだ。
まあ俺は今回、恋をしに来たって言うより推しのミユたんに会いにきた、ミユたんが変な奴に傷つけられない様、守りにきたっていうのが参加の目的だったりした。
だけど今日、俺はかなり疲れていた。
その理由は……推しがミユたんが......思っていた性格と全然違ったんだよな……。
俺は推しの事を、誰よりも知っているとそう思っていたのに、結局何も分かっていなかったんだ。
やはり、推しは遠くから見つめている方が良かったんだよな……。
俺は腕時計に軽く目線を移し、もう女の子達が風呂から帰ってくる頃かな? なんて思っていた。
そんな風に思っていたら甲高い声と共に女の子達が戻って来た、それとすれ違いにウタさんが立ち上がリビングから出ていっているみたいだった。
今でももちろん推しの事はミユたんの事は好きだし大事な存在である事には変わりない。
だけど……。
とにかく俺は疲れていた。
今日みたいな日こそ俺は一人部屋が良かった。
一人でゆっくり考えたかった。
今日はミユたんとずっと二人でいた。
それはとても幸せだとそう思えたら良かったのに……。
分かっていたけど、始めミユたんは創達の居場所ばかりを気にしていた。
それでも課題をこなさなければならない。
ついているのかついていないのか数人の困っている人に出くわす事はできた。
だけどなんというかその対処をするのはほとんど俺だった。
ミユたんが何もしていないとしても、何かしようと一生懸命動いてくれたら俺はそれだけで満足だった。
俺がミユたんを好きだった理由は、何事にも一生懸命で優しい、いやそういう女性だと思っていた。
だけどミユたんは困った人に対しては無関心だった。
優しい言葉をかけている様には見えた。
でもそれは番組上としてという感じなのが、側にいた事で見え始めてしまった。
だからって俺自身がどうなのかは別の話だ。
俺だって別にできた人間でもない。
音楽活動している時と素とで見た目も変えているし、偉そうに言える立場でもない。
推しに理想を押しつけちゃいけない。
俺自身、こんな奴と思い込まれるしんどさや辛さをよく知っている。
なのに、俺自身が今までミユたんにそれをしてしまっていた事に愕然としていた。
推しの幸せは俺の幸せ。
推しが心地よく生きる為の手助けができるなんてそんな嬉しい事はない。
だけど……。
俺はミユたんいや、実際のミユさんの事を知っても推しとして思い続ける事ができるんだろうか?
そもそも俺の推しへの思いはそんなモノだったのか?
俺はこんな風にすぐに心変わりをしてしまう自分自身に幻滅もしてしまっていた。
「あっ、マモル。お茶って残ってる? 貰えるかな?」
ミユさんが、そう言いながら俺に近いた。
そう遠慮がちに声をかけるミユさんは可愛らしい。
と昨日までの俺なら思っていた。
「ああ」
俺は自然に笑っている様に心がけてお茶を冷蔵庫に取りに行きコップに注いでミユさんに渡す。
ミユさんは俺と二人きりになると態度を変えた。
それはカメラには映らないほどの小さな変化。
甘え上手と言えばそれまでだけど、俺自身も表面を取り繕う為、その行動に笑顔で応えてしまっていた。
俺は本当は創ともっと喋りたかった。
それは恋愛を求めているのとは違い、癒しを求めているそう俺は思い込もうとしていた。
創も俺とミユさんの距離感に俺達の事を誤解してしまっていた。
それは全然嬉しい事ではなかった。
創ともっと話がしたい。
それがどういう意味か俺は分かっていなかった。
俺がこんな風にモヤモヤしている間に創と渉、二人の距離が縮まっているなんて、それによって俺の心にどんな変化があるなんて、この時の俺は分かってなかった。
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