第46話 酷似している空間 (渉視点)
急に距離をつめてきた創に俺は驚きを隠せずにいた。
人と人とは合わせ鏡とはよく言ったもので、今まで距離を置いて冷たくした相手だったとしたとしても、相手の対応が変わると自然と自分の態度も変わってしまうものだ。
そもそも、俺は初めなんでコイツの事が気に入らなかったんだ?
そうだ。
俺自身が、コイツはこういう奴だろうと決めつけて勝手にライバル視していたんだ。
それに、あまり人に興味がない筈の俺なのに、創だけは自然と目で追ってしまっていたし、そんな風に見ていると何故かあいつも俺を見ていて、その目線は鋭くて、なんか分かんねーが無性に腹が立ったんだ。
いつからだ?
こんなに気になって……ち、違う。
こんなに笑顔が可愛いくて……そ、そんな訳ねーよ。
俺は自分で考えてしまう内容にすかさず自分でツッコミを入れてその考えをかき消していた。
そんな事したって自分の気持ちなんて抑えれるもんでもねーのに。
だけどそんな風にしてなんとか正気を保とうとしているっていうのに当の本人である創は洗面所に向かうこの廊下ですら俺とのパーソナルスペースが全然なくやけに距離が近い。
創が話している内容は俺が先程好きだと言っていた作家の物語について、そして自分自身が好きな作家や、好きな物語についてだ。
アイツも読書が趣味という事か?
はっきり言って意外でしかなかった。
人は見た目で判断してはいけない。
俺だって、実は読書や映画(映画館は金がかかるからあまり行かねーが)が趣味とは俺の知り合いはあまり知らねーし、そうとはあまり思われていねー。
創だって、パッと見、趣味と言ったら爽やかにスポーツとか言っていそうなルックス。
悪く言えば女の子を数人騙して遊んでいる様な見た目。
チャラい訳ではねーが、女の子が簡単について行ってしまいそうな程コイツの見てくれは良いんだ。
それはそこいらにいる芸能人と引けを取らないぐらい。
しかも、格好良いと言ったって物腰は柔らかいから厳つい感じもねー。
女の子達から頼まれた浮気の調査の対象者なんかも、そんな風に物腰が柔らかく見た目が良い奴ばかりだった。
だから俺はアイツをこの合宿所で初めて見た時、人が良さそうな顔をしていても裏では何を考えているか分からねーと疑っていたんだ。
まあそうじゃねー事は今回、一緒に行動してアイツの近くにいる事で嫌って言うほど分かっちまったんだが……。
しかし、それにしても……こいつの趣味も読書とは本当に意外だったな。
しかも俺の読む話とも方向性は違うが近い。
そう言えば、俺はコイツと今から風呂に入るんだよな?
なんだか緊張してきた。
と言ったって昨日もたまたまだけど一緒に入ったじゃねーか……。
俺が創の話している内容に返事をすぐにしなかったから不思議そうに創が顔を傾げている。
可愛っ。
おいおい、俺の目よ、どうしたんだ?
なんでどこからどう見ても男にしか見えねーコイツの事がこんなに可愛いく見えちまうんだ?
瞬きを数回したり、天井を軽く見たりしながら創から目線を外し、もう一度創をチラ見する。
優しく笑いながら俺の言葉を待つ創の表情に、ドクンと胸が大きくなった。
おい、なんで数分前までは警戒心ばかりの様な空気だったに、こんなに急に無防備になるんだ?
俺はなんとか創に返事を返すがかなり辿々しく応える感じになっているかもしれねー。
そんな事、お構いなしに創は満面の笑みで自分の好きな物語について語る。
先程あの部屋で俺だってチョコレートをくれた女の子の書いたかもしれない物語(台本)について語ったが、創もあの時の様な入り込み様で自分の好きな物語について語っていた。
そうしてそれは昔、小学生の頃、俺が唯一楽しいと思っていたあの時間と酷似している。
俺は変な錯覚におちいっていた。
まるであの頃に、初恋のあの子との、もう戻れない愛しかったあの時間に戻ってきた様な不思議な錯覚におちいっていた。
そんな風に話していたが、俺達は洗面所に着いた。
部屋から洗面所までは歩いて三分ぐらいの距離しかねー。
なのに俺にはいい意味で、かなり長く感じていた。
とにかく、まあ今はさっさと風呂に入るしかねー。
俺は覚悟を決めて服を脱ぎ始めた。
脱ぎながら気になるのはやはり創の事、なんとなくチラ見すると、創が上の服を脱ぎかけたまま、固まっていた。
どうしたんだ?
不思議に思いながらも俺は服を脱ぐ。
創が困った様にこちらを気にしているが、服を脱ぎかけたまま動こうとしない。
どうしたんだ?
気分でも悪くなったんだろうか?
確かにさっきまで誰かが風呂に入っていたみたいで、洗面所は熱気に包まれている。
水か何か持ってくるべきだろうか?
俺はさすがに心配になり、創の真横まで近づいた。
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