第44話 ち、ちけーよ (渉視点)
「そ、そうか?」
そう創が言った時、無性に腹が立った。
この台本はもしかしたらあの子の書いたモノかもしれねー。
だから初めて読む物語なのに、完成されたモノでもなく断片的なのにこんなに惹かれるのかもしれねー。
そう思い、俺はこの台本の物語がすごく大切なモノの様に感じたんだ。
それを創が否定した事が何故かすごくいやだった。
そりゃー、考えてみたら人それぞれ面白いと思うものも違うし、俺が面白いと思ったとしても皆がそう思う訳じゃねー。
俺はこの台本の作者名があの子のペンネームだから、余計にこんなにムキになってしまうのかもしれねー。
だけど、何度も言うが、この物語を創が否定するのが何故だか分からないんだか、すごく嫌だったんだ。
「そうだよ。面白れーよ。コレ、お前もあんだけ上手く演じたんだからこの中のキャラの心情も分かってたんだよな?」
それから俺は気がつくとどこがどう面白いのかを創にムキになって語っていた。
はっきり言ってこんな俺は俺のキャラじゃねー。
だけどなんだか止まらなかった。
同じペンネームって言っても、たまたま同じペンネームなだけでこの台本を書いた人物は俺が知っているあの子と別人なのかもしんねー。
でも俺はあの時、あの子の作った物語をいっぱい読んだんだ。
あの時の俺は、いつも心が寒かった。
どこもココも冷え切っていた。
俺を取り囲む環境はいつもいつも冷え切っていた。
そんな俺にあの子が唯一、温もりを教えてくれたんだ。
あの子の笑顔、そしてあの子の作るどこか温かい物語に俺の凍り切った心が少しずつ溶けていくようだったんだ。
この台本は物語の一部しか載っていない。
だけど、この物語もどこか温かく感じた。
あの子の物語なんじゃないかと思ったんだ。
今日創と一緒に行動して、見た目は全然違う筈なのに、何度も創とあの子が被って見えた。
それは何故か分からない。
今も俺は何故こんなにムキになっているのか分からない。
俺はこの物語の良さについて一通り語ってからやっと我に返った。
俺は一体何故こんなに熱くなっているんだ。
だいたい創はこの物語を悪く言った訳じゃねー。
そうか?
とは言ったがそんなに言う程か?
ぐらいのニュアンスだったのかもしんねー。
一度冷静になれ、こんなに俺が熱くなって創もびっくりしている筈だ。
「ゴメン、なんか言い過ぎた」
そう言って創の方を見ると「別に良い」と応えた創は何故か嬉しそうに笑っていた。
それは今日、俺があんなに見たいと思っていた可愛すぎる笑顔だった。
今の会話のどこにそんな笑顔になる要素があるのか分からないが、先程まで、あんなに腹が立っていたのに、創の嬉しそうな可愛いすぎる笑顔を見て俺の胸が大きく跳ねた。
俺は病気なんじゃねーか?
そう思う程、心臓の音が大きくなってきた。
「もう女の子達、風呂上がったかな? 俺達も風呂、入んなきゃな」
そう言いながら、俺の頭に浮かんだのは昨日見た創の裸だった。
思わず想像をかき消そうと別の話題はないか頭をフル回転させる。
「そうだな。今日はかなり汗掻いたもんな。渉って他に本ってどんなのを読むんだ? 結構色々読むのか?」
そう言いながら創が顔を近づけてくる。
ち、ちけーよ。今までこんなに近寄って来なかったじゃねーか。
ど、どうしたんだよ。
俺は今まで懐かなかった猫が急に懐に入ってきた様なそんな気がして慌ててしまった。
俺は自分が良く読む物語や作家の名前を数人上げると創が嬉しそうに笑っている。
そんな風に会話していたら流れで一緒に風呂に行く事になった。
確かにもしかして一緒に風呂に入れるかもしんねーとは思ったけど……。
風呂の準備をしながら俺は創の笑顔とあの子の笑顔、両方が俺の頭の中でグルグル回っている。
俺は男の笑顔に何故こんなに翻弄されているんだ?
もしかしたら近くにあの子がいるかもしれねーんだぞ!
そう思いながらもどんどん大きくなる鼓動が落ち着かなくて頭を抱えた。
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