第43話 嬉しすぎてどうにかなりそうだった。 (創視点)
俺は緊張を隠そうと気合を入れながらゆっくりと今日あてがわれた部屋に足を踏み入れた。
渉が二つ並んだベッドのうちの一つの端の方に腰かけて、何かを真剣に読んでいる様に見える。
なんだろう?
ああ見えて渉は実は読書が趣味だったりするんだろうか?
もしかして好きな作家さんが一緒だったりするんだろうか?
俺はなんだかだんだん嬉しくなってきて、渉が読んでいる本を知りたくなり、普段の俺なら自分から近づいたりしないのに、渉の読んでいるものが見える位置まで近づいた。
渉が読んでいたものは見覚えがあった。
それは第一に課題で皆でそれぞれ演じたあの台本、つまり俺が書いたものが元になってできた台本だった。
「そ、それ……」
俺は思わず台本を指差して呟いた。
「ああ、この台本って続きあったりすんのかな? 面白いと思ってさ」
渉の言葉を聞いて、俺は頭の先から足先まで体全体が一気に熱くなった気がした。
渉は今、なんて言った?
面白いって、面白いって言ったのか?
いやいや、多分、嫌いな俺との会話なんて何喋っていいか分からなくて、でも渉はああ見えて優しいから何か言わなくちゃって何気なく言ったに違いない。
間に受けちゃ駄目だ。
そう思いながらも顔が緩む。
俺の書いた物語は今までは基本、ほとんど人には見せた事がなかった。
光留に見られる前までは自分の書いた物を読ませたのは幼い頃祖父に数回と、昔チョコレートをあげていたあの男の子だけだ。
俺は作家になりたい、そう思ってはいたけれど、他の人に見せれる自信がなかった。
今は創作サイトもあるし、全くの他人なら見せれるかもしれないそう思ったりもしたが中々、勇気が出なかった。
自分では面白い、面白くかけたと思って書いている。
だけど、誰かに読まれて現実を知るのが怖かったのかもしれない。
チョコレートの男の子は何度聞いても名前を教えてくれなかった。
あの子にはあの子の事情があるし、深くは聞けなかった。
始めて自分の物語を読まれたのも、あの丘でノートに走り書いていた時に後ろからあの子が来たのに気づかなくて、それがきっかけだった。
あの子も言ったんだ「面白いじゃん」って。
俺はその時、嬉しくて舞い上がって、あの子には次々自分の書いた物を見せた。
あの子が名前を名乗ってくれなかったから自分もペンネームを名乗ったりして。
渉があの子に似てるからたまに見る優しい表情があの子とダブるから、渉の言っている事もなんだか冗談に聞こえない。
間に受けちゃ駄目なのに、う、嬉しすぎてどうにかなりそうだ。
あっ、俺、渉に話しかけられたのに、もしかして無視したみたいになってる?
な、何か応えないと……。
で、でも頭が舞い上がってこんがらがってしまって上手く返す言葉が思いつかない!
渉はなんて言っていたっけ?
面白いから続きがないのかと言っていた。
台本は俺の書いた物語が一部切り取られて作られていて、この本だけじゃちゃんと内容は分からない。
もちろん続きはある。
って渉はコレを俺が書いたって知らないだろ!
落ち着け、ひとまず落ち着け俺!
渉は会話の一つとして何気なく言っているだけだ。
ま、間に受けちゃ駄目だ。
俺も何気なく、言葉を返すんだ。
早く!無視したみたいになっているから!
「そ、そうか?」
俺が言った言葉で、渉が一瞬眉を寄せた。
「そうだよ。面白れーよ。コレ、お前もあんだけ上手く演じたんだからこの中のキャラの心情も分かってたんだよな?」
なんだか俺が台本の物語(俺の書いた物語)を否定したからか渉がムキになって怒り出した。
どうしよう、番組的には女の子の事ではなく、意味ない様な内容でいきなり喧嘩って感じに映るんだろうか?
それとも同じ子を好きだと番組的には思われているから何を言っても、言っている言葉が気に入らないっていう風に映るだろうか?
だけど渉が俺の物語について語る度、怒る度、本当に面白いって思ってくれているんだって分かって、なんだか嬉しくてたまらなかった。
「ゴメン、なんか言い過ぎた」
渉が我に返った様に謝ってきて、俺は思わずありがとうと言いそうになりグッとその言葉を飲み込んで笑った。
「別に良い」
そう言いながらも嬉しすぎて緩んでしまった顔が戻りそうになくて、どうにかなりそうだった。
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