第42話 同じ名前 (渉視点)



 コンコン



 ノックの音に俺の身体が思い切り跳ねた。


 なんてらしくねー、格好わりーな俺。


 



 そんな風に思いながらもなるべくいつも通りに返事をした。



 俺の返事の後にゆっくりと俺達の部屋に創が入ってくる。



 現在女性達が入浴中で俺も創もまだ入浴していない。


 時間もあまりないし、上手くいけば創とまた一緒に風呂に入る事だって可能だ。



 って、俺、なんでこんな事考えてんだ?



 自分の考えになんだか身体が熱くなり、創の顔が今まで以上にマトモに見れなくて、俺は第一課題の時の台本を鞄から取り出して目を通していた。



 台本に目を通しながらも意識は創の方に向いていた。



「そ、それ……」


 創がすぐ近くまできていて、俺の台本を指刺している。


「ああ、この台本って続きあったりすんのかな? 面白いと思ってさ」

 自然に会話出来ただろうか?

 俺が言ったのは何気なく今の状況を誤魔化した訳じゃなくて本心だった。


 俺は役者の仕事はお金儲けに過ぎないとは思っていたけど、結構気に入っていた。

 その理由がこうした物語を読むことが好きだからだ。


 趣味で簡単な創作もしていた。

 



 きっかけは初恋? (もうコレは認めよう)の女の子がキッカケだ。


『いつか、作家になりたい、そう思っているんだ。内緒だよ?』


 チョコレートをくれていたあの子がそう言った言葉。

 あの子ともう会えない、そう思った時、俺の中でその言葉が強く印象に残っていた。

 



 そもそも俺はあの子の事をそんなに知らねーし、あの子も俺の事をそんなに知らねー。



 俺はクラスの奴らに、いじめられていたし、俺の家には義理の母親とも言いたくないが、その女以外に知らない人も出入りしていたし、とにかくあの子とあまり関わっては行けない。俺と関わるのはあの子にとっても良くない事。そう思っていた。



 それでもあの時の俺はあの子に会う事を止めれなかったんだが……。


 これからも、あの子と会えるか分からないが、いつかどこかで……。

 そんな風に思いあの子が目指す創作の世界に関わる事ができればもしかしたらあの子に会えるかもしれねー、なんて思ってたりしたんだ。


 と言ったってあの子みたいに小説家を目指す程書いていた訳じゃねーし、物書きの真似事程度だけど……。




 そんな風に台本を見ながら昔を思い出していたが、創に反応がない事を不審に思い思わず本から目線を上げ創の顔を見ると、耳から顔全て、真っ赤に染まっていた。



 へっ、な、何があった?



 なんで創はこんな可愛い顔してるんだ?


 今の短い時間で何があった?



 俺は不思議に思いながらも赤くなる創を見て慌てて台本を閉じた。



 なんで創が赤くなっているのか分からないが、なんとなくつられて俺の身体も熱くなってきた。



 なんとなく気を逸らそうと閉じた台本に目線を移した。



 そこには台本の題名と小さく作者名も書いてあった。



 小さな字で書かれていたし、この台本は初日に配られていらい、鞄にしまいこんでいた。だから全然気がついていなかったが、そこに書いてあった作者名は、チョコレートをくれたあの子、初恋(?)のあの子が教えてくれたペンネーム? と同じ名前だった。




 ど、どういう事だ?



 あの子は作家になれたと言う事か?



 それともあの子はこの番組の関係者なのか?



 もしかして近くにあの子がいるのか?




 先程まで創の事で頭がいっぱいになってきていたのに、俺は一気に頭が冷えた。



 

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