第41話 このドアの向こうには (創視点)

 

 


 ここは合宿所のメンバー皆が日常的に過ごすリビング。


 フゥー


 一息ついてソファーに身体を沈ませる。


 隣に座っているマモルが心配そうにコチラを見ている。


「今日は急に二人していなくなったからビックリしたよ」


 そう言って苦笑いをこぼすマモルは俺が見ていない間にミユさんと随分仲良くなった様に見えた。


 まあ、もちろん、いちゃついている訳ではなかったけど、ミユさんのマモルに対する口調がちょっと遠慮がないというか、言いたい事を言っているというか、なんていうか俺に言いたい放題言う光留っぽいって言ったら良いのか分からないが、とにかく俺や渉に接するのと違って自然な感じだったんだよな。



 下手くそな演技で自分を作っている俺に言われたくはないかもだけど、マモルと会話していたミユさんはとても肩の力が抜けていて楽そうに見えたんだよな……。


 そんなミユさんを含めた女性数人は現在入浴中だ。


 1人だけウタさんというスラっとしていて背が高い女性がテーブルに座って本を読んでいる。


 女性メンバーはミユさん、シホさんの他にフワフワしていて明るいツムギさんという女性と、なんだか女性が王子様って呼びそうな程、格好良い女性ウタさんが居る。


 ウタさんは顔だけ見ると可愛らしいのだが、仕草が格好良いんだよな……。



 俺はココに一応、恋をしに来ているのだから女性に目を向ける必要がある。


 なのに俺が気になっているのは…………。


 



 今日の俺の部屋の相手はワタルなんだよな……。


 想像するだけで火照ってきてしまいそうだ。


「創君? 俺の話聞いてる? 今日はお互い随分歩いただろうから疲れたかな?」


「ゴメン、ゴメン。ミユさんとはどうだった?」


 俺は謝りながらもちょっと頬がにやけてしまった。


 やはり先程の二人の様子を思い出し、今日は二人きりにしてあげて良かったと思った。


「まあ、…………。嬉しかったけど、色々と大変だったんだ。でも……ありがとう」


 沈黙の時間を、考えると俺達と同じで二人も色々あったんだろう。

 照れている様に赤くなるマモルはなんだか可愛かった。


 そんな風にマモルと話をしていたんだが俺は話しながらもキョロキョロと辺りを見渡していた。



 渉はもう部屋に行っているのかな?


 俺は笑顔でマモルに断りを入れてからソファーから立ち上がり今日渉と二人部屋になった部屋に向かって歩き出した。



 

 ココでの食事は交代で用意する事もあれば今日の様に課題が遅くまでかかった時はスタッフが用意してくれる時もある。



 今日はスタッフが用意してくれていたし、夕食時、渉はいつもよりも無口な気がした。

 少し様子もおかしかった。



 という俺も、渉を前にすると今まで通りにする余裕があるのかも分からないけど……。



 俺は部屋に向かいながらも今日の事を振り返る。



 渉と一緒に行動できて本当に良かったと思う。



 渉には迷惑をかけてしまったかもしれないが、渉が一緒じゃなかったなら、今日出会った困っている人達を俺の力だけでは助ける事は困難だったと思う……。


 いや、最後の女性なんて、ちゃんと助けだせたかも疑問だ。



 今日あった出来事を思い出して、俺は少し身体を震わせた。



 一人では怖くて何も出来なくて立ち尽くしていたかもしれない。



 それに、また今日、俺の中で渉の存在が大きくなった気がする。



 始めの印象が悪すぎたからだろうか?

 良い所しか目につかなくなってしまったし、なんだか今では緊張はするけど渉の近くにいたい、なんて思ってしまう自分がいる。



 部屋にはもう俺の荷物は運び込んでいる。

 このドアの向こうには渉がいる筈だ。


 少し音がするからいる事は確かだ。


 嬉しくもあるけど、なんか緊張する。


 だいたい俺は何故だか分からないが渉に嫌われている。


 今日の渉は今までと違って随分俺に優しかった気がする

が……だから余計に嬉しくて……。



 それはでも、なんだかんだで番組の建前上なのかもしれない。


 また冷たくされたり、睨まれたりしてしまったら、俺は普通に、今までみたいに平気そうに接する事が、出来るだろうか?




 この前の月明かりが綺麗な夜もリビングで二人きりだったけど、今はこの前と状況も自分自身の気持ちも違う。







 ドアノブは冷んやり冷たいのに俺の手は緊張でベタベタだ。


 今までも、こうして二人部屋のドアを開ける時は緊張でどうにかなりそうではあったが、今日はまたそれ以上だ。



 このドアの向こうには渉がいる。




 ドアノブを一度離し、深呼吸して二回ノックをする。


 渉の返事をする声、低くイイ声に胸が高鳴る。







 俺は緊張を隠せないままドアを開けた。



 



 

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