第5章 気持ちの自覚
第40話 どうしたらいいんだろう......。 (渉視点)
今日は本当に疲れた。
このリアリティーショー番組に出演している間は何でも屋の仕事も俺は休んでいるし、じっくり休養できるつもりでいた。
いつもはある意味何ヶ所も仕事をかけ持ちしている様なもんだしスケジュール調整も面倒くさい。
役者の方は一応マネージャーが居るにはいるが何でも屋の仕事の調整までしてくれる訳じゃねーからな。
他の働いている奴らに迷惑をかける訳にもいかねーから結構神経の使う仕事だった。
今回の外出課題、何でも屋の仕事よりはまあマシだろうと思っていたが、蓋を開けてみたら、一体なんなんだ? と叫びたくなるくらい大変だった。
あんなに大変だったのに他の奴らと同じ点数とか割に合わない気がしたが……。
俺がその時頭の中に浮かんだのは、荷物運びを手伝ったじーさんや大型犬の飼い主と笑い合う創の笑顔。
用水路に落っこちたばあちゃんが病院で大事には至らないと分かって、元気そうなばあちゃんの顔を見て子供のように嬉しそうに笑った創の顔だった。
まあ、良かったよな……。
あの笑顔、俺は見たことが、ずっと昔に見たことがあるとまた思った。
創のことを考えるとあのチョコレートを毎回くれた女の子、俺の中の大事な思い出の女の子、その笑顔と重なる。
ど、どう言うことだ?
チョコレートの女の子は認めたくはないが俺の初恋なのかもしれない。100歩譲ってそうだとしても何故その女の子と見るからにどこからどう見ても男にしか見えないあの男、創の笑顔と重なるんだ?
俺は今まで認めたくなかった自分の気持ちに狼狽えてはいたが、いい加減にちゃんと向き合わないとならない気がしていた。
俺は、俺はもしかして……。
考えたくない答えに行きつき、心臓の音が大きくなりだした。
いやいやいや、ま、まさかだろ?
これはただ単にギャップにびっくりしているだけだ。
少女漫画とかで、不良っぽい見た目の男子にちょっと優しくされて女の子が夢中になってしまう様なきっとそんな現象がまさかの俺に起こってしまっているんだ。
俺はそんな夢みがちでは全然ないし、そもそも他人を信じられない。
仕事仲間とだってちゃんと一定の距離を保ち心の中まで話せる相手なんかいない。
それは何処か寂しい人間だと思われても仕方がないが、俺はそうやって他人と距離を置くことで自分自身を守ってきたんだ。
それに……。
俺は今まで生きてきて他人に興味を持つことがあまりなかった。
中でも執着していたのが、あの女の子。
もう昔すぎて顔もあんまり思い出せない。
前髪や大きなメガネで目元も見えにくくて、だけど一度だけ眼鏡を取った顔を見た時、見惚れてしまった。
あの時の晩もあの子のことを思い出して眠れなかったんだ。
だ、だけどあの子はもう会うこともないだろうし女の子だし、もし初恋だとしても自然な気持ちだ。
確かに何でも屋の客の中にもそういう風に同性に興味がある奴もいた。
俺も別に偏見があった訳じゃねーし、好きになれて大事に思える相手ができるんだったら性別なんて関係ねー。
そう思ってはいた。
俺自身、なかなか他人の事を信じられねーから、そんな風に思える相手なんて俺には一生現れない、そう思っていたから、そう思える相手が出来る奴らの事を自分とは違うと思いながらも羨ましさや妬ましさ悔しさを感じていた。
だからこんな風に有り得ない自分の気持ちの変化に余計に慌てているのかもしれねー。
ど、どうしたらいいんだ……。
今日の部屋分け何故だか分かんねーけど、創と一緒になってしまった。
創はまだリビングで他の奴らと話をしている。
今日はぶっちゃけ誰と同じ部屋でも良かったし一人部屋でもそうでなくても良かった。創と同じ部屋以外なら……。
どうしてなんだ?
今まで組分けでも男性同士なんてなった事なかったじゃねーか。
番組的にも同性同士で同じ部屋にしたって面白くねーだろうし。
もしかして同じ部屋にして俺と創が宣戦布告しあったりとかそこからの友情とかそういう映像を狙っているんだろうか?
俺、昨日まであいつにどんな態度を取っていただろうか?
もう少ししたら創もこの部屋に入ってくる。
ど、どうしたらいいんだろう……。
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