第38話 何故だか胸が痛かった。 (渉視点)


 


 創の歩く足取りが少し重い。


 分かりやすく落ち込んでいるのが分かる。


 あの後の事だが、俺達には見えにくい位置にやはり二人ほどスタッフが着いてきていて、先程も、じーさんやその家族にも、俺が説明した後にも俺達の状況や今回番組にじーさんの映像を使っても良いか聞いてくれていた。


 俺が隠し撮りした写真も使って良いかも聞いてくれていた。



 確かに、写真も映像も、ちゃんと許可が取れないと勝手に流しちゃダメだよな。



 深く考えていなかったが、スタッフが聞いてくれて良かった。



 じーさんの写真や映像は使っても良いがその他の映像は困ると言われ上手く編集で処理してくれる事になった。



 創の表情はかたい。


 確かにじーさんを見た時の家族の反応は俺も多少はびっくりはした。


 だが俺は何でも屋の仕事の時に認知症高齢者の捜索も依頼されてした事があるし、あのじーさんは認知症な訳じゃないかもしんねーが、身体に難のある高齢の家族がいると、色々と困った事があると、創よりは知っているつもりだ。


 まあ人によっては高齢でも身体に難があっても全然問題なく過ごせていたりもするだろうが、まあその人それぞれ性格にもよるよな。

 色々と一言では言えない事があるんだ。




 と言ったって俺も創が普段、どんな生活をしていて、家庭環境がどうなのかも知らねー。



 今回、それぞれのプロフィールは詳しい事は俺達にも視聴者にもシークレットだ。



 だから創がどんな奴か詳しくは本当に分からねー。



 俺はこの番組に参加した当初は創の格好つけた軽そうな見た目から、苦労知らずの遊び人だと勝手に決めつけていたし、もっと要領良い奴だと思っていた。


 実際は全然要領は良くなさそうだし、今もなんか考え込んでいるみてーだ。



 今回、創と一緒に行動していて、意外と思う反面、何故だか創がそんな風に要領がよくない事を納得している自分もいて、どうして自分がそんな風に思うのか分からなかった。



 そんな風に過ごし今は昼だ。


 俺達はまだ全然課題がこなせていなかった。



 まあ別に俺はそんなに焦ってはいない。



 他の皆が近くにいる時はなんだか張り合う気持ちが出てしまったり、創が他の奴に対する態度と俺に対する態度が違う気がして腹がたったりしたが、こうして二人きりで歩いていると、何故か分からないが落ち着いている自分がいた。


 何かベラベラ喋っている訳でもないのに、隣にいる事に全然違和感がないんだ。




 さっきの事で、落ち込んでいるコイツを見て、そんな不器用なコイツを見て、昨日までのコイツは実は全部演技で、本当のコイツは全然嫌な奴じゃないんじゃねーか?


 何故だかそんな風に思ってしまっている自分がいた。



 演技だと思うと、逆にマモルと話していた時やじーさんの前での笑顔がこいつの本当の顔かもしれねー。



 なんで、演技をしているのか、コイツが何を思って自分を作っているのか分かんねー。



 まあ、確かにクールで、スカした様なアイツの方が女子からもモテるだろうし、視聴者的にもウケは良いだろうが……。



 今まで、俺の前ではあんな笑顔で笑ってくれた事なんてねー。




 そんな落ち込んだ様な顔じゃなくて、笑わねーかな?



 俺は気がつくと、横にいる創の事をジッと見つめてしまっていた。


 

「な、何?」


 俺の視線に気がついたのか、クールな表情に戻った創が、眉を寄せてコチラを見ている。


「べ、別に何でもねーけど」



 そんな風にそっけなく返しながらも俺にはあの笑顔を見ることが出来ない。

 そう自覚し、面白くなかった。



 もし、見れたとしても、それは俺に向けた笑顔じゃない、そう思い、何故だか胸が痛かった。


 



 

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