第37話 困った人を助けるという課題 (創視点)



 結局、おじいさんの家まで送る事になった俺達。


 もちろんおじいさんはそこまでしてもらう訳にはいかないと断っていたんだけど、俺が心配でたまらなかった。



 おじいさんの躓く回数も多かったし、荷物の量も多い。

 今は早朝だから、まだ高齢者が歩くにもそんなには苦ではないかもしれないが、休みながらゆっくり歩くだろうし、日が高くなるとそうもいかない。

 しかもこの荷物の量だ。

 

 

 もしこのまま、一人で帰る所を見送ったならば、おじいさんは早々に疲れて動けなくなってしまったり転んでしまう事が簡単に想像出来たからだ。



 俺の祖父も無理をしてしまう事があった。



 歳を取ると出来なくなる事が増える。

 だけど家族の役に立ちたいと思うし、何かをしたいと思う。


 自分が前の様に色々な事が少しずつ出来なくなってきている、それは自分自身が分かっていても、中々認めたくない、そう思ってしまうもの。



 今まで何でも出来る、あの当時俺がそう思っていた祖父が、少しずつ少しずつ弱っていく所を見るのは辛かった。


 強がって弱い所を見せていなかった祖父が、役立たずな自分は嫌だと時おり俺にだけ弱音を吐いた。


 そうじゃないんだ。俺が今まで色々な事を教えてもらったんだ。今度は俺がお返しをする番なんだ。そう言った時、そうじゃなってそう言うじいちゃん(祖父)の声は弱々しくて、なんだか物悲しかった。


 あの時はじいちゃんを励ましたくて必死だったけど、俺の言っていた言葉はじいちゃんのプライドを更に傷つけていたのかもしれない。



 このおじいさんも家族の為に何かしたいんだな。

 だけど出来るだけ家族に迷惑をかけたくないんだ。


 俺は世間話をする様におじいさんのいく方向を聞いた。


 そうして、いかにも自然な流れで自分もそっちに行く用事があるからと言いながらおじいさんと一緒におじいさんの家まで歩いた。


 もちろん後ろから渉も着いてきている。


 渉には悪い事をしたのかもしれない。



 こんな風におじいさんを家に送ったりしてはいるが現在はリアリティーショーの課題中だ。



 今回の課題は写真と福祉だと坂下さんが言っていた。


 写真を撮る事はこれからも巻き返しができるかもしれないが福祉の方はどうだろう?


 困った人を助けるというのは街を歩いていて簡単に出来ることでは無い。



 ココが田舎町でしかも自分がそこにずっと前から住んでいて周りの人が声をかけやすい状況だとしたら、困った人も軽い気持ちで声をかける事が出来るかもしれない。

 自分だって知り合いだったら声をかけやすい。



 だけど、合宿所は少し奥まっていて自然が多い所にあるが、ココは車通りも多く、歩く人のスピードも早い。


 都会と言ったらそれまでだが、都会はある意味とても便利だが、他人との距離は遠く、孤独な所でもあると俺は思う。



 そんな中にも見えにくい中でこうやって困っている人達はいる訳だけど、皆、周りを頼ろうとはしないし、知らない人から声をかけられるのも怖かったりして困っている部分も見せない。



 だから今回の課題は一人に対してもかなり時間がかかるものだと俺は思う。



 この課題を全うする為には一人に時間をかけるより、ある程度区切りをつけて次に行く必要があったのかもしれない。



 渉は多分、俺と一緒に行動しなければもっと要領よく課題をこなしたと思う。巻き込んでしまった。





 おじいさんの家に着いた時、おじいさんの家の前にはその家族がいた。



 お孫さんと思われる女の子が嬉しそうにおじいさんに飛びつき、そのお母さんと思われるご婦人はおじいさんを見て非難する様な大きな声を上げた。


 喜んでいたお孫さんもその声を聞いて顔がこわばった気がした。



 








「悪かったよ」

「何が? 俺は別にお前の為にあのじーさんを送った訳じゃねーし」


 俺の言葉にそう皮肉の様に軽い口調でかえす渉に俺は救われていた。





 今は渉と二人再び大通りを歩いている。

 今はもう昼だ。


 おじいさんを無事家に送る事ができた。

 送り届けた時、娘さんなのがお嫁さんなのか分からないが、おじいさんを見て、大きな声を上げた。


 俺達に気がついて、声を荒げるのを止めたみたいだが、その後、微妙な空気が流れた。



 俺は上手く言えなかったが渉が上手くその女性に事情を話し、その後にいつから着いてきていたのか、番組スタッフが現れて更に詳しく説明していた。

 それを聞いた女性はコロっと態度を変えて、俺達は女性にお礼を言われその場を離れた。


 


 おじいさんは無事家に送る事はできたがなんだか俺の心はモヤモヤしたままだった。


 それぞれのお宅でそれぞれの事情があって、皆、それぞれ悩みを抱えている。


 俺達は困っている人を助けると言ったってそれは今だけの事で深く関われる訳じゃない。


 それは結局、根本的に助けた事にはならないし、偽善者の様な気もした。


 


 


 今回、課題をこなす為に声をかけた訳じゃなかったけど、この課題、難しすぎるとそう思った。

 



 


 

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