第34話 やっぱり、そういう流れだよな......。 (渉視点)
今日は朝から調子が悪くていつもより表情を作る事が難しかった。
多分昨日、長湯しすぎたのに、なんの対策もせずに寝てしまったからだ。
同室の女の子はまだ何か話したそうにしていて、それをあしらうのにも随分労力を使った事も関係あるのかもな。
しかも今朝は何でも屋の同僚からまた助けを求める電話も入っていたし、まあ、それは結構いつも通りの話だったりはするんだが声を荒げてしまったし……。
しかし、外出課題とは予想外だった。
何も問題は起きなければ良いが……。
もし、巻き込んでしまった時の為にミユさんがヒールを履こうとするのを止めてはもらったが……。
俳優の仕事を始めてから何でも屋の仕事は自分でするのは減らして大体を同僚や部下に任せていた。
もし俳優、もしくはその他の仕事でも、今回の事をきっかけに大きな仕事を掴めたら同僚に任せて俺は何でも屋から抜けたいと思っていた。
ちゃんと安定した給料が貰えるなら、スタッフでも何でも良いとも思ってもいたし、初めてする仕事でもなんでも挑戦するつもりではいた。
だけどそんな風に思ってはいても、中々きっかけを掴む事も難しかった。
俳優で成功を狙うって手もあるが、元々何でも屋の仕事はこちらが全然悪くなくても、人に恨みを買う事も多かったし、ある事ない事書かれてスキャンダルに持ち込まれる可能性もあるから、俳優業で成功したとしても俺にはかなり危ない橋を渡る事になる様な気もしていた。
目の前にはじーさんと創がかなりスローペースで歩いていた。
俺はその後ろから、じーさんの持ち物である買い物袋を二つ両手に持ってついて歩く。
もちろん創も一つ、じーさんの買い物袋を持っている。
買いすぎだろう……と言いたい所だが嬉しそうに孫の話をするじーさんに余計な事は言い難い。
創も普段合宿所で見せる顔とは別人の様な顔でじーさんと話している。
置いてきたミユちゃんやマモルの事はどうでもいいが、俺達から離れた所にスタッフはいるんだろうか?
見当たらないが、リアルを追求する為に隠れているんだろうか?
困っている人を助けるって言っても抽象的すぎて基準がわかんねーよな……。
だいたいその困りごとを誰が判断するんだ?
俺は両手に持っていた買い物袋を片方でまとめて持ち、ズボンのポケットからスマホを取り出した。
何気なくこの番組のアプリを開く。
一人一人に分かりやすく簡単なプロフィールが書かれてそれぞれの顔写真と一緒に表示されている。
俺もなんだかワガママそうな嫌な笑顔で写ってはいるが、創もぶっきらぼうな無表情で写っているな。
そんな風に思っていたが、俺と創の欄に困った人を助けた人数がそれぞれ一人と表示されていた。
今回ぐらいな手伝いみたいなのでも助けた人数に入るという事か……?
と、こんな風に表示されているという事はスタッフが近くにいるという事だよな?
俺はキョロキョロと周りを見ながら誰かそれらしい人は居ないか探ってみた。
俺は仕事柄、人の気配を察知する能力は長けている方だが周りを歩いている人はいかにも若者っていうか一般人の様にも見える。
バイトでも雇っているんだろうか?
だがカメラマンだっているはずだ。
そんな風に思いながらも再びアプリに眼線を移す。
そこにはマモルがUPしている写真があり画像を押すと写真が拡大して表示された。
さっき創がマモルと何か話してると思ったがこれか!
この写真って、ええと創がぼんやり歩いていた様に見えた時のだよな?
危なかっしく見えて、なんか空に吸い込まれてしまうみたいに儚く見えて思わず手を掴んだんだ。
俺はそのマモルのUPした俺と創と奥の方にミユさんが写っている写真を凝視した。
そこには照れた様に笑いながらも顔を赤くしてうろたえまくっている創が写っている。
あの時、角度的にあんまり創の表情は見えなかったがこんな可愛い顔をしていたのか。
俺は思わず浴室で見た創の白い肌を思い出した。
一瞬よからぬ映像が頭を過り、やばいと思って頭を振った。
スマホを持ったまま、再び目の前を歩いている創とじーさんに目線を写した。
創がじーさんと楽しそうに話している。
こっちが本当の創なのか?
別人の様に表情が、クルクル動く。
いつもは口元だけで笑う様な笑い方なのに、俺が渡した眼鏡の奥で糸目の様に目を細めて優しそうに笑っている。
その表情を見ていると、チョコレートを会うたび毎回くれたあの女の子の笑顔と重なった。
思わずスマホをかまえてシャッターを押していた。
俺のスマホのカメラのシャッター音はオフにしているから創もじーさんも気づいた様子はない。
なんでだ?
なんであの子と重なってしまうんだ?
俺はもう一度頭を振る。
そんな時、じーさんが少しふらついた。
創が慌ててじーさんを支える。
じーさんは普通に歩くにも少し危なっかしいようだ。
俺は何でも屋の仕事で認知症老人の捜索もした事がある。
あの時は結構大変だった。
もうすぐ歩道橋も渡り終わる。
「おじいさんの家はこの辺なのかな?」
これはやはり、このじーさんの家まで送る流れになりそうだ。
創の心配そうな表情とじーさんの無邪気な笑顔を見て俺はそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます