第31話 外出前に (創視点)
渉、ミユちゃん、シホさん、マモルと、皆それぞれの部屋に戻っていった。
多分着替えるのかな?
確かに、何かの撮影の様にあからさまにビデオカメラが後を追っかけていても、メンバーのリアルは撮れない。
今回の課題、特に福祉に関しては困っている人を多く助けると言っていた。
渉は光留が言うには有名人らしいし、周りに人が集まってしまっても思う様に課題はクリアできない。
だからといって誰も声もかけれない様だとそれもまた具合が悪い。
多分困っている人が声をかけやすく、しかも自分からも声がかけやすい様な姿に変装をしているのかな?
俺はまあ、変装まではしなくて良いだろうけど、っていうか今の姿がすでに変装みたいなもんだよな。
着替えを終えた渉が部屋から戻ってきた。
先程よりも地味になったんだろうか?
でも身体つきが良いからシンプルな半袖Tシャツに黒のチノパンでも洗練されている様に見えてしまう。
まあ、帽子を目深にかぶる事で渉の綺麗な大きい目は見えにくくなっている。
渉と目があった。
途端に眉を潜めてこちらの方に歩いてきた。
「その格好で、行くつもりか?」
「そうだけど?」
急に渉に声をかけられてビックリした。
不格好にびくついてしまったかもしれない。
渉は小さく溜息を吐き自分のカバンから眼鏡を取り出した。
「これでもかけていろ」
そうやって渡してくれたのは感じの良い細めのフレームの眼鏡。
度は入ってないみたいで、これならばコンタクトの上からもかける事が出来る。
「えっ?」
俺は何を言われたのか一瞬分からなくて受け取るのに時間がかかったが渉に無理矢理渡された為、戸惑いながらもその眼鏡をかけた。
渉の眼鏡をかけた時、少し柑橘系の香りがした気がした。
そうしていよいよ出発だ。
外出課題と言っても他でお泊まりする訳でもなくタイムリミットは夜7時まで。
だから遠くまで行ける訳ではない。
俺達4人とも車の免許も持っていないから移動手段は交通機関を使わなければならない。
まあ俺は高校生だし学校に行くのも普段電車通学だから慣れたもんだが皆はどうなんだろう?
俺達以外の四人を残して先に出発だ。
そんな中ミユちゃんが高めのヒールを履いているのが気になった。
上品で可愛い靴だ。
ちょっとした食事なんかにはもってこいの靴だろう。
だけど……多分、今日は歩き回るし、ヒールだと危ないと思うんだけどそんな事、言うべきじゃないだろうか?
「スニーカーは持ってきていないのか?」
「えっ?」
ワタルの問いかけにミユちゃんはびっくりして戸惑っているみたいだ。
ワタルは普段は俺にはきつい物言いをするが他の人、特に女の子には優しい。
ミユさんの事はワタルが気になっている相手なのだろう、そう思わせてしまう程普段は優しい口調で喋っている様に感じだ。
だからいつもより少しきつい口調でも違和感を感じた。
「スニーカーじゃなくてもいいけど、今日はもうちょっと歩きやすいのにしな?」
少し優しい口調で言い直したワタルにミユさんは初めは納得いっていないみたいだったけど結局スニーカーに履きかえた。
俺は優柔不断だ。
女の子に対しては特に言いたい事はうまく言えない。
ワタルは男らしいよな……。
そうだよな、後々考えると、長時間歩く可能性がある事が予想される今回の課題。
ミユちゃんの為にも一緒に行動する自分達の為にも、歩きやすい靴で参加した方が良いとは思うが、靴や服装については女の子には結構拘りがあったりする。
今回ミユさんにハッキリ言う渉は男らしかった。
格の違いを見せつけられた気がして、その分、自分の事が少し情けなくなった。
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