第26話 風呂の中で(創視点)


 なんとか部屋を出てきた俺は洗面所で服を脱いでいた。


 浴室の中からは少し音がするし、誰かいる様なシルエットも見える。


 

 誰か入っているんだな。



 俺は外して棚の上に置いていた腕時計を見た。

 


 


 この時間なら女性はすでに入り終えているはずだし、明日のことを考えると早々に入浴を済ませて睡眠をとった方が良い。



 そうじゃ無くてもかなり肉体的にも精神的にも疲労が激しすぎる。

 いつもと違いすぎる自分を無理して演じているせいで余計に負担が増えているのだろう。



 今日、少し話ができるかもしれない相手が出来たからか緊張の糸が少し緩んだのも原因かもしれない。



 今日も女性と同じ部屋だが、今日の部屋は両思いの部屋な訳ではないからベッドは部屋に二つある。



 よっぽどな状況ではない限りちゃんと眠る事ができるはずだ。


 俺は手早くコンタクトを外し手入れをして眼鏡をかけた。


 風呂の中は眼鏡が曇るし裸眼の方が良いけど、自宅の風呂と勝手も違うし見えないのは危ないからかけた方が良いよな……。



 その時、浴室から水が跳ねる様な少し大きい物音がした。



 なんだろう? 大丈夫だろうか?



 本当はいくら男性同士と言っても風呂くらいゆっくり入りたい、そう思い時間をずらそうとも思っていた。



 だけどやはり少しでも睡眠時間を増やすためにはそうも言ってられない。



 服や下着を脱ぎ終えた俺はフェイスタオルと洗面用具を持って浴室のドアを開けた。


 入ってすぐに丁度浴槽内で立ち上がったワタルと目が合った。




 服を着たままの状態からも十分イイ身体をしている事は分かっていたが、ワタルはしっかり鍛えられている細マッチョという感じで実に羨ましい身体をしていた。

 眼鏡が少しくもり、はっきりは見えない、声もかけられないから俺はこれ幸いと洗い場の方に足を進めた。


 渉は肌の色も俺みたいに病弱っぽい青白い感じではなくて程よく健康的そうに日に焼けていて本当に理想の肉体といった感じだった。




 俺は子供の頃はあの丘に良く空を見に行った。


 あの頃は俺も健康的な肌の色をしていたのかもしれない。


 いつからだっただろう、外に行くことが少し億劫になってきていた。


 


 物語を作る事が好きなのは変わらないがあの時の純粋な気持ちは少しずつ薄れていたのかもしれない。




 いや、それだけではないか……。



 あの時の赤い靴下の男の子、名前は......。思い出せない。



 遊んだのは一年間くらい、決まった時間に毎日、30分だけ。


 っと、また記憶が昔に飛びそうになった。


 なんでだろう。



 ワタルを見ているとあの男の子を思い出す。



 ワタルに会うまで忘れてしまっていたのに……。



 俺は早く身体を洗ってしまおう。


 そう思った時、背後からガラッと扉が開く音がした。


 シーンと静まり返っていた浴室内に少し高めの声が響いた。


 俺はマモル君だと思ってすぐ声に反応した。



 渉と二人きりだとなんだかいつも以上に落ち着かなくなってしまう。



 マモル君が来てくれて良かった。


 俺はいつも以上にはしゃいでしまっていたかもしれない。


 すっかりクールでなくなって、いつもの自分の様になってしまっていたが、裸の渉がすぐ側にいる、そう思うとはしゃいで気を逸らさないとドキドキが収まりそうになかった。


 



 

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