第24話 前途多難(創視点)


 俺は少し浮かれていた。


 不安で仕方なかったこのリアリティーショー。

 何が不安って相談できる相手がいないし、演技なんかした事がない俺がいつまで皆を騙し通せるかも分からなかった。



 そんな中、話しやすそうな相手ができた。

 こんな過酷な中で友達ができたかもしれないんだ。

 少し浮かれても仕方がない事だろう。

 だけど......。




 夢を叶える。恋をする。


 それがこの番組の目的。



 俺もできれば夢を叶えるための第一歩にしたい。


 今回のことがもし夢を叶えることに繋がらなかったとしても、良い経験にはなる。


 そう思っていた。


 しかも今回、この番組で台本という形でだが俺の作品を使ってくれていた。


 俺の了承も無しに使われていたのは少し腹がたった。

 番組側からしたら、台本を送られてきたのだから使われたのなら喜ぶとでも思ったのだろうな……(妹に問いただしたら書類と共に送りつけていたらしい……流石に怒りたかったが、どこまでも俺は妹に弱い……まあ、俺が喜ぶと思ったんだよな光留は……可愛い妹だよ)



 だけど、まあ、演技経験のない俺は自分のキャラということで無事演技をやりとげる事が出来たし、台本にも俺のペンネームが記載されていた。


 納得できない部分も無くはないが自分の物語のカケラが世に出た事はめちゃくちゃ嬉しくもあった。



 



 しかしもう一つのこの番組の目的。

 恋をするというのは、架空のイケメン(?)を即席で作り上げた俺にはかなり困難の様に思えた。

 まあ厳密に言えば恋をする振りで良いんだけど、俺はそんなに器用じゃない。



 振りなんて、無理に決まっている。


 実際、この作り上げた俺自身では、本当の俺の性格が見え隠れしてしまっているし、どんなに演技を重ねても限界がある。


 綻びが出てきてしまっている。


 マモルという友達(と呼んでしまっても良いだろうか? )が出来て心強くはなったがその分、この嘘で固められたオモチャの様な仮面も剥がれそうになってしまっている。


 現にマモルと話す時、普通に学校の教室で友達と話すみたいに表情筋が緩まってしまっている気がする。

 俺自身が作り上げたクール(?)な俺では無くなってしまっている気がする。


 困ったな……。


 なんて思うよりもまずはこれからの事だよな……。




 俺はうだうだと心では悩みながら、だけど表面的にはクールに冷静に見えるように表情を抑えて、自分の部屋の前まで来ていた。


 今回同室になる相手は松林志穂さん。



 それにしてもこの部屋決め、1位と両思いになったもの以外は男女問わずランダムと聞いたが、ランダムでこうも男女が同じ部屋になったりするものだろうか?



 ランダムなら同性同士がなる事もあるだろうに……。

 やはり少しやらせも入っているのだろうか?


 まあまだ2回目だし次回は同性同士が同じ部屋になることもあるのかもしれない。



 もしかしてマモルと同じ部屋になる事もあるんだろうか?


 そうしたら修学旅行みたいで楽しいかもしれない。


 それにワタルとも同じ部屋になる可能性もあるんだろうか?

 その可能性を考えた時、あの月明かりに照らされていたワタルの顔が脳裏に浮かんだ。



 ワタルのことを考えると一気に体の熱量が上がった気がした。



 本当にどういう事なんだ?

 あんな生意気な態度のあいつの事がどうして俺はこんなに気になるんだ。



 泣き顔を見たからか?


 しかもその顔が見た事がないと思うくらい綺麗だったからか?

 俺の心を、揺さぶる様な、だけど心のどこかで引っかかるあの印象的な目つき。



 あの時までワタルの顔をじっくり見た事がなかった。


 少し赤みがかかった薄い茶色い瞳。女性の様に長いまつ毛。

 そんな目なのに少し吊り目で怖いと思ってしまうほどの鋭い目つき。



 身長は俺よりも10cmぐらい高い。

 筋肉も俺よりもかなりしっかりついている。


 俺も今回かなり頑張ってから少し前よりは筋肉はついた方だが段違いだ。

 いくら綺麗でもどこからどう見てもしっかりした男だ。


 だけどワタルは俳優だ。


 綺麗で当たり前。

 目力があるのも当たり前だ。



 俺がうろたえてしまうのも当たり前だ。


 格好良い芸能人や格好良い男性に憧れる気持ちと同じだ。



 そうだ。


 きっとそうだ。


 


「ソウさん? 入らないんですか?」



 背後から聞こえたシホさんの声で我に返った。


「ああ、ごめん。今、入るよ」


 俺の後からシホさんも部屋の中に入ってきた。


 俺は俺からは少し離れてはいるが、後方にシホさんがいる事に緊張しながら風呂の準備をしていた。


 シホさんはもう風呂上がりの様で、髪を緩く一つに結っている。

 湯上がりの肌が火照っていて少し湿り気を帯びている。

 服装は薄手のトレーナーにゆったりした長ズボンそんな姿なのに絶妙な色気を放っている。



 はー。

 俺は背後にいるシホさんの事を考え、ため息をついた。

 やはり同じ部屋に女性がいるのは緊張する。


 シホさんの格好は課題の時は大人っぽく肌を多く見せていて目のやり場に困る感じだったが、現在の格好はその時と正反対で少し安心した。


 まあ変に露出するより色っぽかったりもするんだが、こういう格好は家で光留がよくしていた為、俺は少し免疫があった。



「ソウさんて、ワタルさんの事、よく見てますよね?」


 だが、いきなりそう話しかけてきたシホさんに、俺の顔は強張った。



「へっ?」


 思わず大きい変な声が出た。


 まっ、まずい。

 うろたえ過ぎて思いっきり素がでた。


 シホさんがニヤッと笑ってこちらを見ている。


「な、なんの事かな? ワタルさんは男の俺から見ても良い男だから、なんとなく見る事はあるかもだけど?」



 なんて事のない様にかわしたつもりでいる俺だったが内心うろたえまくっていた。


 



「俺も風呂に行ってくるよ」


 シホさんが何か言い出す前にそう告げて俺は早足になるのを抑えて風呂の用意が入った袋を抱え部屋を出た。



 ニヤニヤと締まりのない顔で笑っているシホさんが見えた様な気がしたが今はそれどころではない。


 友達が出来て浮かれていたが、俺は器用じゃない。



 自分自身の事も全然分からないし、……やはり前途多難だ。

 



 


 


   


 

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