第23話 俺は何をこんなにイライラしているんだ?(渉視点)

 

 今回同室になった女、名前はなんだったか……。

 興味を持つ必要があるのだろうが俺は今、色々なことに疲れ切っていた。


 女性は感じ良く話しかけてきていたが、笑顔でそれに答えることも苦痛だった。



 笑いかけてくる女性に軽く愛想笑いをしながら目線を外す。

 部屋の隅に目立たない様になってはいるが隠しカメラがついている。


 そう、この部屋にもカメラはついている。


 一人部屋以外にはこんな風に隠しカメラがついているんだ。

 だから一人部屋以外では俺も含め出演者はいつも気を張っている状態だ。


 これから先の仕事にも関わってくるし、今までつけたイメージを崩す訳にもいかない。

 

 俺はなんとか理由をつけて穏やかに部屋から逃げてきた時、廊下でアイツとすれ違った。



 中川 創。




 俺がこんなに疲れているのは全てこいつのせいだ。


 なんでこんな奴を俺はこんなに気にしてしまうんだ?


 そう思いながらも奴から目が離せない。



 振り返り、よく見てみると、奴の前をこの番組に出演しているメンバーの中では少し地味目な男が歩いていた。



 確か名前はマモルだったか?



 話しやすかったし鼻につく感じもなかったから覚えている。



 だけど何故奴らが一緒にいるんだ?


 すれ違った時、ソウの表情は穏やかな様に見えた。



 奴はいつもどこか周りと線引きしている様に見えた。

 クールな表情で感情を表に出さない様にしている。そんな風に見えた。

 たまに笑ってもそれは演技の笑顔。


 一応俺は役者だから素かそうじゃないかはなんとなく分かっていた。


 そんな奴が素の表情を出している様に見えた。



 そして何故か奴、ソウとマモルが一人部屋の部屋、昨日俺が泊まった部屋に入って行った。

 一人部屋。

 あそこにはカメラはない。




 そうか、今回はマモルが一位か……。



 だが何故、ソウまで入っていったんだ?



 俺は思わず奴らが入っていった一人部屋の扉の前まで来ていた。


 足音を立てずに歩いたから奴らは気づいていないだろう。

 周りに人気もない。



 って俺は何故こんなに奴らの事が気になるんだ?





 カチャンッと中から鍵が閉まる音がした。




 な、何故だ。何故鍵を閉める必要があるんだ?




 ソウもちょっと危機感が足りないんじゃないだろうか?

 それか奴とマモルは知り合いなのか?



 俺は自分自身が怪しげな事をしていると分かっていても中々扉の前を離れられなかった。


「ハハッ」

 扉の前でウロウロしていたら中から楽しそうな笑い声が聞こえた。

 他にも何か話しているんだろうが、何を言っているか聞こえない。

 



 声の感じからしてさっきの笑い声はソウの声か?



 ソウは気の許した奴の前ではあんなに楽しそうに笑うのか?



 俺は何故だか分からないが無性に腹が立ってきた。


 先程のマモルに向けていたソウの穏やかな表情が俺の頭をよぎり、胸にズキンッと突き刺す様な痛みを感じた。



 俺はなんだかその場に居られなくなり、リビングに向かって歩き出した。














 しばらくしてリビングに現れた二人はいつもより距離が近い気がした。



 ソウが今までは見せていなかった笑顔を奴にだけは向けている様な気がした。



 あらかさまに態度が変わった訳ではないが奴がマモルに気を許し始めていると思った。



 いいじゃないか、あんな奴。

 誰に笑いかけていようとどうでもいいはずだろう?




 そう自分に言い聞かせていた俺だったが、マモルに笑いかけているソウの笑顔と昔、会う度にチョコレートをくれていたあの垂れ目の少女の顔が重なった。



 全然違う、だからそもそも性別が違うだろう?

 


 そう思うのに……どうしてこんなに重なるんだ?

 俺は頭がおかしくなったんだろうか?



 俺は二人を直視したくなくて目を逸らそうとする反面、軽く頭を振りながらも、二人から目を離せなかった。




 



 

 

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