第22話 どうした、俺......(マモル視点)




 俺の名前は立石 衛。



 将来の夢は自分自身も元気になれる様な曲を作って、プロのミュージシャンになる事。



 歌う事が大好きで、音楽全般が好きな事だ。

 現在もアマチュアだがミュージシャンとして活動をしている。


 もちろん歌うだけでは食べていけないからバイトで生活費を稼いでいる。


 だけど実は俺は音楽以上に好きな事がある。




 それはアニメだ!


 バイトもアニメグッズのショップと本屋を掛け持ちしている。


 今回、ちょっと嘘をついて長期休みをもらっている。


 と言ってもミュージシャンでプロとして成功する為、顔を売ると言う目的もあるが、このリアリティーショーに参加したのは、本当は違う目的もあった。


 実は俺の大好きなアニメ。その中の推しの女の子の声を当てている新人声優のミユたんが、このリアリティーショーに参加しているとファンクラブから情報を得たからだ!



 まだミユたんはそんなに上手でもないし売れてもいない。



 でも可愛らしい天使の様な声と可愛すぎる顔で熱狂的なファンがいる。



 まあ俺も含めて。  





 ミユたんの事を考えると自然と顔が緩んできてしまう。



 俺はバンドの時と普段の生活とでは顔を使い分けている。


 もちろん今はバンドの時の顔だ。



 普段はモサモサな、目元を隠したようなカツラを被り、服装も地味な格好というか、わざとセンスが無い様な格好をしている。



 俺はアニメや推しのことを考えると抑えが効かない時もあるから、俺自身のファンに実際の俺を知られる訳にはいかないのだ。




 今回、ミユたんが目の前にいて平然とした態度を保つことに俺は相当の無理をしている。




 すぐ手の届く範囲にあの目の中に入れても痛く無いと思える天使がいるんだぞ!

 興奮を抑えられる訳ないだろう?




 だけどここはありとあらえる所にカメラがある。



 それにだ俺のファンもこの番組を楽しみにしているかもしれない。


 アニメや声優好きの普段の俺を見せる訳にはいかないのだ。




 だから目の前に大好きなミユたんがいるのになるべく側に近寄らないように努力している。


 それなのに……中川 創。




 今回、彼を参加者の中で見つけた時、嫌な予感がした。

 彼は芸能人の様な見た目をしていて身長は俺よりも低いが、ミユたんの隣には自分がふさわしいとでも言っているかの様に横を陣取っていた。



 一見クールで冷たそうに見えるのに時折さっきと同一人物?

 

 というかのように楽しそうに笑う。



 その笑顔はここの数人のスタッフなどと喋る時にしか見せていなかった様だし、その笑顔を見て俺も少し調子を崩した。




 それまでは彼の事をミユたんの事を脅かす俺やファンクラブにとって、ただの敵だと思っていたから。





 ファンクラブの仲間達は俺がこの番組に侵入までしているとは思っていない。




 だけど俺はこの参加者の中に自分の友達が参加していると嘘をついていた。




 ファンクラブの中には熱狂的すぎて周りが見えないようなヤカラもいる。



 もちろん俺の様に純粋にミユたんを好きな奴もいる。



 俺はミユたんとどうこうなりたい訳じゃない。



 ミユたんに幸せになって欲しい。


 リアリティーショーの番組に出演して結ばれたからってそのまま付き合う訳ではない事は分かっている。

 だけどミユたんがもし本気になって傷ついてしまったら……。


 俺はそんな姿を見たくない。




 今日は音楽の課題で1位を取れたから俺は一人部屋になれた。


 あいつの本音を聞き出すには今日が最適だと思った。




 それに、先程、リビングであいつに言った事は嘘ではない。



 あいつの作った歌詞に心を惹かれたのは事実だ。 



   






 彼自身の本質を知るため、部屋に呼んだのだが、彼の反応に俺は少し疑問を持っていた。


 俺が近づくと彼は戸惑っているかの様だった。


 彼がソファーから立ち上がったと同時に俺は思わず腕を掴んだ。


「痛っ」


 彼の呟きに慌てて俺は手の力を緩めた。



「ごめん、創君。ミユた……ミユちゃんの事好きなの?」


 俺は自分の気持ちを悟られないように気をつけ彼の様子を伺いながら聞いた。


 


「ええと……」


 彼はすぐに返事をしない。

 なぜだ? やはりさほど気持ちがないのにミユたんを弄ぼうとしているのか?



 

「マモル君はミユちゃんが好きなのか?」


「えっ? いや、ええと」



 俺は思わず素が出てしまった。

 顔が熱い。


 歌っている俺と違っていつもの俺は、すぐ考えている事が表情にでるし顔も赤くなってしまう。

 なんとか冷静にならなければ、冷静に……。


 そんな風に慌てている俺を見て彼がクスリと揶揄う様に笑った。



「俺はミユさんを好きな訳じゃない、これから先はまだ、分からないけど」



 やはりこいつ、ミユさんを傷つける気だな?


 俺は冷静になるどころか再び感情が高まり思わず、緩めていた手に力を入れ直した。

 俺の必死なってしまっているのと相反して彼は楽しそうに笑った。


「痛いって、なーんてな。ハハッ、だって先のことはまだ分からないだろう? まだ出会って数日しか経っていないんだし。まあ、一目惚れした訳ではないけどな」


 そう言った彼は先程の嫌な笑い方ではなくごく普通の男の子の無邪気な笑顔だった。

 そんな笑顔に俺は毒気が抜かれた気がした。


「ごめん」



 俺は再び手の力を緩めて謝った。

 その時、彼の、ソウ君のとろける様な優しい笑顔を見てしまった。


 その笑顔は今までのクールで冷たい印象を受ける彼とは全然違い、俺は口を開けたまま固まってしまった。




 か、可愛い……。





 お、俺、何を考えている?



 俺はミユたんを守る為にこの番組に参加したんだ。




 俺が惑わされてどうする。




 そう思いながらも、先程のソウ君の笑顔が頭から離れず、激しくなっていく動悸もおさまりそうになかった。


 

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