第21話 マモル(創視点)




 マモルが今日使う予定の一人部屋に入ると、俺が入ったと同時にマモルが振り返り部屋の鍵をかけた。



 マモルの顔が近くて、しかも鍵をかけた時の表情が真顔で少し怖かった。

   




 へ? なぜ鍵をかける必要があるんだ?



 不思議に思いながらも俺はすぐに柔らかい表情で笑うマモルに警戒する気も起きず、小さめの二人がけの簡易ソファーに座った。


 一人部屋にはパソコンデスクとそれ専用の椅子も置いてある。


 友達の距離感としては俺がソファーに座ったのだとしたらマモルは普通にその専用椅子に腰掛けると思っていたがニコニコ笑いながら普通に俺の隣に座ってきた。


   





 こいつの距離感はどうなっているんだ?



 しかし、こいつの笑顔は子供の様な甘さも含んだ笑顔で、警戒するのを忘れてしまう。







 だが、こいつもやはりイケメンだ。



 学校のクラスメイト達の男臭い匂いと全然違う。



 だからって香水臭い訳でもない。




「ちょっと近くない?」



 そう言いながら俺はディスク前の椅子に座ろうと立ち上がった時、マモルから腕を掴まれた。



「痛っ」


 強く握られ思わず声がでた。



 マモルはすぐに力を弱めてくれた。


「ごめん、創君。ミユた……ミユちゃんの事好きなの?」




 そう言ったマモルの表情は、少し硬さを含んでいて、ピリッと空気が痛くなるような感じがした。


「ええと……」



 いきなりの質問でびっくりした。


 どう答えるべきなのが正解なんだ?


 こんな事を聞くマモルはミユさんの事が好きなんだろうか?



 ディレクターの言うようにミユちゃんを好きなフリをするならばココで男らしく宣戦布告するべきだろう。



 だが、ここにはカメラはないし、ミユさんの事を好きになっている訳ではないのにそのふりをする意味もない。



 それよりも友達になれそうなマモルと仲良くなれた方が良い。




 ゴクッ

 俺が自分の生唾を飲み込んだ音がシーンとした部屋の中に響いた。

 すぐ近くで俺を見つめる、あまりに真剣なマモルの顔。  

 いつの間にやらできていた緊迫した空間に俺はかなり戸惑っていた。



「マモル君はミユちゃんが好きなのか?」


「えっ? いや、ええと」



 そう言うマモルの顔は赤くなりミユさんを好きだとは言っていないけど言っているのと同じだった。



 俺は思わず顔を緩めてしまった。



 そうか、彼はもう恋をしているんだな……。



 そんな彼に嘘はつけないな……。




「俺はミユさんを好きな訳じゃない、これから先はまだ、分からないけど」



 そう俺が言うと同時に俺の腕を掴んでいたマモルの手が再び力を強めた。


「痛いって、なーんてな。ハハッ、だって先のことはまだ分からないだろう? まだ出会って数日しか経っていないんだし。まあ、一目惚れした訳ではないけどな」


 マモルは俺の言葉にすまなそうな表情し、手を離してくれた。


「ごめん」



 そうぼそっと呟いたマモルは今まで柔らかく笑っていた爽やかイケメンの顔は俺と同じで偽りの顔かもしれない、そう思うほど余裕がない表情に見えた。



 やはりマモルは他のメンバーと違って俺と同じく不器用な奴なんじゃないだろうか?




 そう思うとなんだか仲間ができたみたいで勝手に嬉しくなってしまい思わず自分の顔が緩んだ。




 その俺と目が合ったマモルはポカンと口を開けたまま俺をぼーっと見つめた後、再び顔を赤くした。




 なんだ? ミユちゃんを好きなことが俺にバレたと思って恥ずかしくなったのか?



 不思議に思った俺は、再びマモルの隣に座り直しマモルの赤くなった顔を覗き込んだ。



 マモルの考えていることが分かったからか俺は安心し、彼に対する警戒心を完全に解いてしまっていた。




 彼がどんなことを考えているか分かった気になっていた俺だったが、やはり全然分かっていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る