第20話 この時、俺は知らなかった(創視点)


 黒川さんとは途中で別れ、俺は再びスタジオに戻ってきた。



 先程の、周りの壁が鏡貼りになっているダンス教室の様な部屋に入ると、ワタルが俺をすごい目で睨みつけていた。



 昨日のあの儚い 顔と同一人物なのかと疑わしい程の鋭い目つきだ。




 俺はアイツに何をしたと言うんだ?



 今回の音楽の課題、一位はマモルだった。



 そして二位がワタルだった。



 一位になれなかったのが悔しくて俺に当たっているというのだろうか?




 俺は八つ当たりされる程、アイツにとって気に入らない存在なのだろうか?




「はい。中川が戻ってきた所で始めようか」



 坂下さんの一声で再び撮影が始まった。



 皆、緩んだ表情から緊張した顔に戻る。ワタルも鋭い目つきから別人の仮面を被った様に柔らかい表情になった。




 








 そして現在は合宿所に戻ってきている。



 今回は誰も両思いにならなくて、マモルが1人部屋で、それ以外はランダムだった。



 ちなみに俺の部屋は松林 志穂さんと同じ部屋だった。



 前回と違ってランダムに決まった部屋だから少し気が楽だった。



 そして、今回マモルの他に一人部屋になった女性はミユさんだ。



 誰が誰を書いたかは本人が伝えなければ両思いにならないかぎり知らされる事はないし、ミユさんが今回誰を書いたかも分からない。




 だけど黒川さんの言いたかった事とは、特に書きたい相手がいないのならミユさんの名前を書けって意味だったのだろうか?



 確かに番組的には恋愛的にそれぞれの感情が入り乱れないと面白くない。



 俺はココで親しく喋れる相手もまだいないから、皆が誰を思っているのかも分からない。



 



 それにしても、やはり女性と同じ部屋というのには、なかなか慣れない。

 もとが陰キャだからか余計にどうしてイイか分からなくなる。



 クラスの女子のように確実に恋愛対象にされていないのならば、また話は別なんだが、なんとなくいつもと違う目で見られているのも、どうしていいのか分からない。


 俺は荷物を今回の自分の部屋に置いてから、再びリビングに戻りソファーに腰かけて、コーヒーを飲んでいた。




 皆、それぞれ部屋にいるのか今、リビングには誰もいない。



 後ろから扉が開いた音がして振り返った俺は入ってきた男を見て少しホッとした。




 入ってきたのはマモルだった。



 マモルは演技の課題の時から勝手に親近感を持っていたから、もし友達になれるとしたらこいつかな? って思っていたりしたのだ。




 俺はこの参加メンバーの中で浮いた存在だと思っている。



 マモルも柔らかく優しい感じの爽やかイケメンだが、ワタルの様に刺々しさはなく、俺の事も見下していない気がした。



 もちろん俺の事をワタルも見下したりしていないのかもしれないが、口調がいちいちキツくて緊張してしまうし、あまりに生意気な表情で笑われると腹も立ってくる。



 そんな反面、あいつの行動に一喜一憂してしまっている俺もいる。


 気になってしまうし、ソワソワもしてしまう。




 ワタルと違って、マモルはなんだがこうして同じ部屋にいても緊張しないんだ。



「ソウ君、隣、良い?」



 マモルがコーヒーを持ってすごく良い笑顔で話しかけきた。


「ああ、もちろん。どうぞ」



 俺はソファーの端に寄ってマモルが座りやすい様にした。

 マモルが少しソワソワしながら緊張した顔になって俺の隣に座った。


「ソウ君、あの歌詞ってあの場で作ったの? それとも元々歌詞とか作ったりしてるの?」



「ええと、ルール的にそれって言ってもいいんだっけ? 今もカメラって回ってるのかな?」



 俺は戸惑いながら周りをキョロキョロと見渡した。


「確かにこの部屋はスタッフがカメラを回す他にも隠しカメラが設置してあるみたいだね。番組的には面白い恋愛模様を見逃さない様にする為みたいだけど、いつも見張られてるみたいで息がつまっちゃうよね」



 そう言いながら苦笑するマモルに俺はますます親近感を覚えた。



「だな。でもマモル君は今回一人部屋だったよな? 一人部屋は確かカメラがなかったんじゃなかったっけ?」


「そうだけど、俺、ソウ君と話をしてみたいと思って……」



 そう言ってマモルが少し顔を赤くした。



「えっ? なんで? 俺? 女の子達じゃなくて?」


「ソウ君の歌詞、すごく良かったからちょっと話がしたくて」



 えっ? 何それ、すごく嬉しいんだけど。



 俺は嬉しさを隠せずに表情が緩みまくってしまった。



「ちょっと俺の部屋に来ない? カメラもないし、喋ろうよ」


「え? 俺じゃなくて女の子を誘ったら良いのに」


「女の子とはいつでも喋れる、だけどソウ君とはカメラ回っている前では喋ることも制限されるからさ」



 立ち上がり、俺に笑いかけたマモルに言われ、俺も戸惑いながらも立ち上がり手を引かれマモルの部屋に向かった。



 これって番組的には有りだろうか?



 まあこういうリアリティーショーは男の友情とかも熱く取り上げられたりするから、そういう意味では有りかもしれない。



 俺はここでも友達ができるかもしれない。

 窮屈なこの撮影中でも気軽に話せる相手ができるかもしれない。


 そう思い頬を少しだけ緩ませた。



 この時、俺はマモルの優しい笑顔を見て、マモルが何を考えているなんて全然知らなかった。


 あの爽やかな笑顔も向こうで何を考えているのかなんて知りもしなかったんだ。

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