第14話 月明かりとアイツ(創視点)

 俺はミユちゃんを一人ベッドに残してゆっくりと部屋のドアを開けた。


 廊下に出て、音を立てない様にゆっくりとドアを閉める。

 そのドアに寄りかかりながら、大きくため息をついた。


 目の前がボンヤリしている。

 ベッドを出る時、側に置いていたメガネをかけて出たが、慌てていたからかずれてしまっていた。

 しっかりと眼鏡をかけ直す。

 ぼやけていた世界が鮮明に見える。


 やはり、眼鏡の方が性に合っている。


 


 本当は明日、夜間以外でも眼鏡の方が良いのだけど……。


 嫌、コンタクトだからあのメンバーの中にいても、なんとか隣に立つ事ができるんだ。

 


 フー。


 俺は小さくもう一度ため息をついた。




 なんだか疲れたなー。



 この番組に参加してから、緊張のしっぱなしだ。


 俺らしくない俺でいるのもかなり辛い。



 今回俺は妹のお願いで一応、クール系って奴になりきって参加をしている。




 クラスや昔からの友達にちょっと天然入っているって言われる俺がクール系なんて無理があると思ったんだが……。



 妹が言うにはイケメンな見かけを作ったとしても俺のこの性格が全てを台無しにしていると妹に言われてしまった。


 だからミユちゃんが今回、もしまかり間違って俺に好意を持ってくれたとしても、それは本当の俺じゃない。




 



 ミユちゃんはあの後、俺が頑なに眠る演技を続けていたからか、いつの間にか眠ってしまった。


 完全にミユちゃんが眠ったのを確認して、なんとかこうして部屋から出てくる事ができた。



 


 こんな俺の様子もカメラに映ってしまっているのだとしたら、かなり情けない男として移っているのかもしれない……。


 


 


 だけど仕方ない。


 これが俺だ。




 今夜はリビングのソファーで眠るしかないかな。


 数人座れそうな大きさだったからそんなに寝心地悪くもないだろう。



 明日も課題は出る。


 しかも何をさせられるかも分からない。

 予習もできない。



 せめてゆっくり眠りたい。




 他にも空いている部屋はあるかもだか、勝手に使わせてもらう訳にはいかない。


 

 俺はリビングに向かって歩き出した。


 廊下には皆が夜間、トイレに行きやすい様にオレンジ色の淡い電灯が点いている。

 この建物は比較的新しいようで、軋んだ音もなく薄暗くても不気味な感じはしない。


 だけどこう見えて俺はホラーなど、その手の類が大の苦手だったりする。


 少しハラハラしながらもゆっくりと足を進めた。



 廊下の角を曲がった所に少し白っぽい別の光が漏れていた。


 リビングの扉が少しだけ空いている。



 リビングの窓から月明かりが漏れているのだろう。



 俺は開きかけたリビングの扉をゆっくりと大きく開けた。


 窓の側に人の影が見えて危うく大きな声をあげそうになったのをなんとか堪えた。



 怖くても我慢、我慢だ。



 今、ここにいる俺はクール系。そう見えなくても一応クールキャラなんだ。



 先程の部屋でのミユちゃんに対する対応で、もうすでにクールキャラなんて台無しにしてしまっている事は分かっていたがなんとか自分を取り繕った。




 よく見るとお化けの類ではないな?


 誰かいる?


 男かな?



 窓際に立っているのは背の高い男の様だった。




 そうだよな……。


 考えたら普通寝る前は、リビングもカーテンを閉めるから、誰かが開けないと月灯りが漏れる訳ないんだ。



 俺達がカーテンを閉め忘れたとしてもスタッフの誰かが閉めるだろうし。


 ホッとして思わず顔が緩んでしまった。


「眠れないのか?」


 思わずそう声をかけると、月明かりが振り返ったそいつの顔を照らした。



 そこに居たのはワタルだった。


「お前、お前こそまだ寝てなかったのか?」



 そう言いながらワタルは少し慌てたように前を向いた。


 ワタルの声は少しだけ掠れていて目の下が濡れている様に見えた。



 もしかして、泣いてた?



 苦労なんかした事がなさそうなイケメン新人俳優のワタル。


 感じ悪く、いつも人を馬鹿にした様に笑う。そんなアイツの泣いている姿なんて想像した事がなかった。




 どうやらここにいても俺はゆっくり眠れそうにない。



 だけど俺は先程の不安そうに揺れているワタルの表情が頭から離れなくて、そこから動けなくなってしまった。



 



 


 

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