第13話 可愛い女子と部屋で二人きり?!(創視点)



 結局、ワタルは何が言いたかったんだろう?


 お互いに分かった事は演技経験はそんなにないという事だけだ。



 まあ、むっとしている様だったから怒らせたのは確かかもしれないが……。



 ……なんて考えている場合ではない。



 今現在、俺はベッドの中だ。


 布団に包まりながら悶々としていた。


 パジャマという訳ではなく、半袖Tシャツに長ズボン。



 この半袖Tシャツは、今回身体を鍛えるまで、ちょっとダブついていたんだが、少し筋肉がついてから、ピッタリサイズになってしまった。



 太った訳じゃないぞ?


 筋肉は重いからな。


 まあ体重的には増えたから太ったとも言えるが……。




 足や腕の毛は元々薄めだから、露出している部分も女子が見ても、そんな気持ち悪い感じでもない。



 なんて、俺、なんでそんな事、気にしてるんだ?



 カメラもあるし、何かあるなんて、間違いが起きるなんてある訳ないのに……。



 だけど、女の子と同じ部屋だぞ?



 何もするつもりなくても変な雰囲気になってしまうかもしれない。


 部屋のライトも、押すスイッチを間違えたら変な雰囲気の色になる。


 ミユちゃんが来る前にちょこっとだけ部屋を観察したから、この部屋で可愛らしい女の子と過ごしたら……。


 どんな風になってしまうか、変な妄想をしてしまいそうだ。




 部屋の奥には大きめなベッド。


 成人した大人が二人寝転がっても、全然余裕がある。そんな大きさのベッドだ。


 しかも、昨日いた一人部屋のベッドと、マットレスやシーツの質が全然違う。


 

 掌が沈み込む様な柔らかさだ。



 横になってみれば、腕や体がベッドに沈み込み、柔らかく包み込まれた気分になれる。


 一人部屋ならこんな嬉しい事はない……。


 だけど今の俺はそんな幸せに浸れる余裕は全然なかった。




 って、そんなことを言ったって、普通の男なら今の状況はそれ以上に幸せかもしれない。


 あの可愛らしい女の子、ミユちゃんと一つのベッドで眠る事ができるのだ。



 俺には、この番組後、二度とこんなチャンスは来ないかもしれない。


 

 だけど、俺は何故かちっとも喜べなかった。


 それよりも焦る気持ちの方が大きかった。




 そんなふうに言うと俺は普通の男じゃないみたいだが……いや普通の男だ、俺は何処もおかしい部分はないはずだ。





 カメラも設置されているし……きっと俺のオロオロしている所を映して笑い物にする気なんだ。




 そう、俺は全然、余裕がなかった。




 幸い、風呂はミユちゃんより先に行く事ができた。



 風呂の順番はジャンケンで決めたのだが、ラッキーだった。



 今、ミユちゃんは風呂に行っているだろう。


 俺はミユちゃんが風呂から、この二人で過ごす予定の部屋へ、戻ってくる前にベッドに入る事に成功した。


 視聴者さん達から弱虫って思われたっていい。


 俺は電気も消して狸寝入りをした。



 真っ暗の空間の中、本当にこのまま眠る事ができれば苦労はなかったのかもしれない。




 しばらくして誰かの足音が聞こえてきた。

 ゆっくりとこの部屋に近づいてくる。



 俺は包まっていた布団を普通の状態に戻してなるべくベッドの隅に寄った。



 そして、とうとうドアは、開かれた。


 開いた瞬間、ドアの方からシャンプーと女の子特有の良い香りが漂ってきた。

 俺の緊張はピークに達して思わず唾を飲み込みそうになるのを必死で堪えた。


「ソウさん? もう寝ちゃったんですか?」


 緊張したようなミユちゃんの声。

 俺の寝息(狸寝入りだけど)を聞き、寝たと思ってくれたのか、足音を立てずにベッドに近づいてきた。



 ミユちゃんがベッドに近づく度、フローラルな香りも近くなる。




 俺の心臓もそわそわしてくる。




 俺はミユちゃんを別に好きな訳ではない。


 だけど可愛い女の子と一緒に寝た経験(変な意味じゃなく)なんてない。 



 いやまあ光留(妹)とはあるが流石に妹にそんな気が起きるほど俺は飢えてはいない。

 と言ってもあんなに成長した光留とは流石に同じベッドに入った事はないが……。

 




「ソウさん? 起きてますか?」


 優しい声で語りかける様に声をかけてきたミユちゃん。


 語尾がちょっとだけ熱っぽく聞こえた。


 おいおい、ミユちゃん、どうしてそんな色っぽい声を出す必要があるんだ?



 視聴者さんへのサービスか?


「ソウさん?」


 俺は遠慮がちに言うミユちゃんの声に根負けして返事しそうになるが、なんとか思いとどまった。


 俺はぎゅっと目を瞑りミユちゃんが諦めて眠りにつくのを待った。




「ソウさん? 狸寝入りですか?」

 ゆっくりベッドに上がってくるミユちゃんの気配がする。


 ミユちゃんが優しく、俺の背に触れる。


 心臓がびっくりしすぎて止まってしまいそうだ。



 彼女の掌は遠慮がちに俺の肩を撫でる。


 俺は体全体が固まってしまった様になってしまった。



 彼女の事、好きな訳じゃないのに、女の子に免疫がない。

 ただそれだけでこんな風になってしまう。


 きっと耳まで赤いと思う。


 クスクスとミユちゃんの笑い声が聞こえる。


「イケメンさんなのに、意外と奥手なんですね? それとも私の事、気になっちゃってる感じですか?」



 さっきまで緊張している様に見えたミユさん、俺の様子を見て余裕を取り戻したみたいだ。


 布団がめくられミユちゃんが中に入ってきた。


 人一人分ぐらいは空けてくれているが可愛い女の子がこんな真横で寝ている。



 しかも近すぎないか……?



 俺はミユちゃんに背を向けているが、指を一本でも動かしたら彼女の体の何処かに触れてしまいそうだ……。



 最近の女の子はこんなに積極的なのか?


 俺はなんとか眠っている演技を続け、なるべくミユちゃんから離れる為に更にベッドの隅に寄った。

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