第12話 合宿所にて(創視点)



 結局、ワタルともう一人、演技で俺と組んだシホさんが一人部屋になっていた。


 別にシホさんは順位が上の方だった訳ではないが、たまたまくじ引きで、あぶれたのだ。



 他はそれぞれ男女がくじ引きで同じ部屋になっている様だった。

 

 俺も彼らと、実際は同じ心境なんだが、俺はたまたま名前をミユさんと書いていて、願った相手と一緒になれた様な形になってしまっている。


 たまたまなんて言うと失礼だが、今まで恋愛に奥手だった俺だ。

 出会ってすぐに誰かを好きになるなんて、できる訳がない。


 ちらっとミユさんの方を見ると柔らかく恥ずかしそうに笑う。



 そんな様子から、ミユさんが期待している感じも伝わってきて、かなり複雑だった。



 ミユさん、確かに可愛い。


 俺の隣に立つとかなりの身長差になるから自然に上目づかいで見られている感じになる。



 こんなに熱っぽく見つめられると、普通はドキッとしたり、するんだよな?



 俺は男として何処かおかしいんだろうか?



 きっといつも世間様から美少女と言われている妹を側で見ているから、感覚が麻痺しているのかもしれない。



 後、クラスの女子にも、相談役にされる事が多いから、なるべく、そういう対象に見ない様に心がけていた事も原因かもしれない。


 こっちばかり、その気になって片思いするなんて、悲しすぎるからな。


 まあ、好きになる事を怖がっていたと言ったら良いだろうか?




 とにかく、そんな風に、この状況を素直に喜べず、俺が困り果てていたら、ミユさんが俺の隣に座ってきた。


 遠慮がちに人一人分ぐらいは空けてくれてはいるが、短めのスカートから柔らかそうで真っ白い太ももが見えている。



 目のやり場に困る。



 そんな風に思っていると、目の前のソファーにワタルが腰を下ろした。

 身長はワタルの方が高いのに座高は変わらないなんて、微妙にやな感じだ。


 相変わらず無言で何か言いたそうにこちらを見ている。


 キッチンから他のメンバーの声が聞こえる。



 俺達も何か明るい楽しくなるような話をしたら良いんだろうが……誰も喋らないから、なんだか気まずい空気が流れる。

 

 なんでワタルは昨日みたいにミユちゃんに話しかけないんだ?


 

 あ……、今回成立したメンバーしか呼ばれてないから、ワタルが誰の名前を書いたか分からないが、昨日の奴の様子から察するに、ミユちゃんの名前を書いたんじゃないだろうか?


 それなら俺は恋敵だと思っている訳だから、あんな目で俺を見るのも当たり前かもしれない。


 それに、もしミユちゃんの名前を書いたんだとしたら、ミユちゃんが書いた名前は俺だ。


 それが本心ではないのかもしれないが……ワタルからしてみれば、もう振られたと思っているのかもしれない。


 声はかけづらいよな……。


 ワタルは女の子から振られたことが無いような見かけだもんな。

 しかも、俺みたいなモブ顔の奴に(今回、妹のおかげでまあ少しはマシな見た目になったとしてもだ)負けた様な形になっているし、腹が立っているのかもな……。




「あっ、私、コーヒーでも入れますね?」


 あまり良くない空気感を察知してか、それとも見た目、格好良いワタルがそばに居たから緊張したのか分からないが、ミユさんが立ち上がってそう言った。


「ああ、俺も手伝おうか?」



 そう言って俺も立ち上がりミユさんの後に続こうとした。

 内心はコイツのキツい視線から逃れたかったのが本音だ。


 大丈夫でーすと言う、ミユさんの声に、仕方なく俺は再びソファーに座り直した。


「お前って、演技経験、豊富なの? 名前、聞いた事ないと思ってたけど、俺が知らなかっただけか?」



 ミユさんがいなくなってからさっき迄の沈黙が嘘みたいに、いきなり普通に話しかけられて俺はかなり、うろたえていた。


「いや、初めてみたいなもんだ」


 あ……、何を目指しているか秘密にしなくちゃいけないって事は、こう言うことも秘密にしないとダメなんだろうか? 


 もう言ってしまったが……。


 俺が初めてと言う言葉を発した時、ワタルは信じられないと言うような悔しそうな顔をした。


「まあ俺も演技自体はそんな経験豊富ではないんだがな(実生活で毎日演技している様なもんだったけどな……)」


 あんなすごい演技をしていたワタルも経験豊富じゃないんだ? 最後の方は声が小さくてなんて言っているか聞こえなかった。  



 


  




 

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