第10話 演技②俺の書いたキャラクター(創視点)


 ワタルの演技は、ミウさんのぎこちない演技を帳消しにしてしまいそうな程の迫力だ。


 俺も含めて、見ている皆を、物語の中に一気に引き込んだ様だった。



 そして、ミウさんも、ワタルの演技に引っ張られて少しずつ、少しずつだけど、ぎこちなさが取れてきた。



 始めに説明した様にミウさんも顔が整っている。



 キュートな潤んだ目で(俺の書いたキャラクターでとびきり可愛いとオレ自身が思っている)ヒロインのセリフを言うミウさん。



 そして、俺が自分の息子の様に思っている大事な大事な主人公のセリフを低音の良い声で言うワタル。




 この演技を見ているだけで、この企画に参加して良かったと思えた。



 っと、感極まっている場合ではない。




 ワタルの後にも次々とメンバーの演技が続く。



 ワタル以外は何を目指しているのか分からないが、皆、俳優を目指しているんじゃないか?



 そう思ってしまいそうな程、上手く演技をこなしていた。



 とまあ、そう言うのは言い過ぎか?



 一人、少し地味めだが顔は整っている奴で、かなり棒読みな男性がいた。


 そりゃそうだよな。

 秘密にされてはいるから分からないが、彼が目指している職業はきっと俳優以外だろうな。



 名前は......なんだったっけ?



 ちょっと忘れてしまったが確か、ニックネームはマモルだった。




 人事ではなくて、俺はマモルに親近感がわいた。



 そして、そんな事をウダウダ考えている内に、いよいよ俺の順番が回ってきてしまった。



 緊張で腕が震える。



 こんなのどうやって乗り越えろと言うんだ。



 少し離れた所からこちらに向けてカメラが回っているのも見える。



 ありえない。

 夢だと思いたい。

 もうちょっとしたら、やかましい声で光留が「朝だよ? お兄ちゃん?」と言いながら起こしてきて、気怠くベッドの上で目を覚ます。



 なんてそんな風に思いたい。


 台本に書いてある文字を見ながら現実逃避したくなる。



 だが、残念ながらこうやってカメラに囲まれて、煌びやかな男女達の前で演技を披露しなきゃならない、こんな状況は......現実らしい。





 隣に座っていたシホさんが、心配そうに俺を見る。


 さっきまで余裕たっぷりに見えていたシホさん。

 俺のこんな様子を見て、不安な気持ちにしてしまっただろうか?


 そうだよな。

 俺が変な演技をしたらシホさんにも迷惑がかかるよな。



『何言ってんだ? 失敗は成功の素。そこから学ぶべき事は必ずある』




 俺が書いた小説の主人公のセリフ。


 俺が考えた思い入れのあるカレのセリフが俺の頭の中に響く。



 今から俺が演じるのは主人公のカレだ。



 俺はワタルみたいに演技経験者じゃない。

 見た目もワタルみたいに格好良い訳ではない。



 だけど、主人公のカレは俺が生み出したキャラクター。



 誰よりもカレの事を知っているのは【オレ】だ。



 俺自身はカレとは性格が全然違う。


 だけど、カレがどんな事を考え、生きているか、どうなりたいと願っているか……。



 俺はココにいる誰よりもその事を知っている。



 いや、知り尽くしている。



 俺は神経を集中させ、物語の中にダイブした。


 すごく短い時間だが、俺には今まで『カレら』を書いてきたその長い時間がよみがえってくる様に……、それぐらい鮮明に、カレの気持ちが俺の中に押し寄せて来た。




 カレに憑依されてしまったと錯覚するくらいに鮮明に。



 俺はその時した演技を覚えていない。



 気がついた時には終わっていた。



 

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