第9話 第一課題 演技①(俺、文化祭でも木の役しかした事ないんだが......)(創視点)



 そして、いよいよ始まってしまった。  

 昨日は自己紹介や他の出演者との簡単な交流のみだった。


 合宿所の様な部屋を用意されたが俺は疲れていたのもあって、すぐに自分の通された部屋に閉じこもって眠ってしまった。




 今日は演技をしてもらおうと思う。

 そう言って台本を配られた。


 配って下さったのは坂下さんではなくて、ちょっと年配のおじさんだった。



 おじさんといっても偉い人かもしれないし、気は抜けない。



 坂下さんは今日は仕事が入っているらしい。



 この企画、本当に無謀だと思う。  

 夢を応援すると言っても目指している事は人それぞれ違うはずだ。


 つまりは役者を目指していない者はど素人という事だ。 


 今日は演技をすると言った。



 そうだ。ど素人の俺も演技をしなければならない。


 


 俺は、今まで学校の文化祭でも木の役とか脇役中の脇役しかした事がない。



 もちろんその時、小説を書いている事は皆には内緒だから台本を書いたりもしていない。



 つまりはモブ的な事しか体験した事がないのだ。







 そんな事を考えていたら、皆、一斉に台本のページをめくり始めた。



 俺もボーッとしている場合ではない。






 俺も一ページめくって題名に目を通した時、目を疑った。




 その題名は見た事があった。



 自分が書いていた小説と同じ題名だった。



 え......。

 ど、どういう事だ?



 首をかしげながら、ページをめくると、見覚えのある名前、見覚えのあるセリフが飛び込んできた。


 ドンドン動悸が激しくなる。



 そこにあった内容は脚本用に書き換えられてはいたが、俺が書いた小説と同じ内容だった。




 な、何が起こっている?



 どうしてこんな事に?


 思わず声を上げそうになった。





 作者名が載ってあった。


 それは俺のペンネーム。



 そのペンネームは一人にしか教えた事がない。



 そう言えば小三のときチョコレートをあげた少年、彼には自分の名前を言わないでペンネームを名乗った。



 と、そんな事は今はどうでも良い話だ。



 俺は自分の小説をウェブで公開したりしていない。



 人に読ませた事もない。



 いや、例外が居たな……。


 光留……。



 もしかして……お前の仕業か……。




 そうこうしている内に先程のおじさん先生の指示で一人一人の演技が始まった。



 男女でペアになり演技をするみたいだ。


 くじ引きでペアを決め俺の相手は色っぽいお姉さんだった。



 名前は確か……松林 志穂、あだ名はシホさんだったか?



 昨日少し話をしたミウさんとはワタルがペアになっているみたいだった。




 始めにワタルとミウさんペアの演技が始まった。



 ワタルは役者の卵だ。


 実際、また脇役だったりするのだろうが、テレビにも出ていると光留も言っていた。



 ワタルが演技に入る時、室内の空気が変わった気がした。



 それに比べてミウさんの演技は少しぎこちない。


 相手が上手じゃないとそれだけ、やり難いということか……。



 俺も相手役のシホさんに迷惑をかけてしまうな......。




 だけど、俺は、自分がやらなければならない演技よりも感動している事があった。




 自分が書いた文を元に、それが形になっている。



 自分が作ったキャラクター。



 思い入れのあるキャラクターの役を目の前で演じられている。



 その事自体に胸が熱くなってきた。




 セリフは俺が考えたままの、そのままのセリフだった。



 

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