第6話 気になる男 (渉視点)



 中々にしんどい過去を持ち、学歴もお金もなかった俺だか、人より優れた点もあった。




 それは周りの奴らよりも、ある程度、見た目に優れていた事と、どんな状況に追いやられても前を向ける精神的な強さだった。




 まあ周りの奴らの事が信じられないと言ったのは、俺の側に寄ってくる奴が、男も女も見た目を気にする、自分の事しか考えない奴らばかりだったからかもしれない。



 俺は本業のほかにも金を稼ぐ為、何でも屋みたいな仕事をしていた。



 依頼はインターネットで、金の額によっては色々な、仕事もやった。


 安い仕事は恋人のフリ。

 逆に彼氏をヤキモチ妬かせる為に邪魔する役。



 警察から相手にされない程度のストーカーらしき人から守るボディーガード。


 金のない奴らの引っ越しの手伝い。


 子供の迎え。


 ベビーシッター。



 俺自身が目当ての客もいて、そんな奴らは結構な額の金を払ってくれる事もあった。

 それを逆手にとられる事がない様にもらい過ぎない様にはしていたが......。


 そう身体を使うと言ったが何も売りをやっていた訳じゃないし、警察のお世話になる様な事もやっていた訳じゃない。




 そんな俺だったが、チャンスも巡ってきた。

 何でも屋の仕事で来ていたある撮影現場でスカウトされた。



 そこからは簡単な、ちょい役だが俳優としての仕事もできる様になった。



 

 そして事務所からあるオーディションに参加する様に言われた。




 俺は俳優の仕事に興味があった訳じゃない。



 だけど、最近人気のリアリティーショーでは人気が出ると芸能界から大きな仕事も来る様になるんだとか。




 しかも、今回俺がオーディションを受ける予定のリアリティーショーの企画は少し面白そうだった。



 夢を持っている若者を応援する企画らしく、俳優以外も歌手、写真家、陶芸家、色々な職業を応援する企画らしく、注目度も高い。




『いつか、作家になりたい、そう思っているんだ。内緒だよ?』




 そう言ったあの子の言葉を思い出した。



 チョコレートをくれた。

 本当の名前も知らない垂れ目のあの子。



 そう恥ずかしそうに顔を赤くして言うあの子は可愛かった。



 




 そして、現在俺はこの撮影現場に来ていた。



 皆、みてくれの良い奴らばかり。


 性格も良さそうに見えるが、まあそうだろうよ?

 この番組は俺も含めて皆が欲しがるビッグチャンスだからな。



 かぶるわな、猫の一匹や二匹......。いや五匹ぐらいか?


 とにかく素で参加している奴らなんて、いないんだろうよ。



 そんな風に思いながら愛想笑いを浮かべている俺だったが、ある男からやたらと視線を感じた。




 ジッと見つめてくるあの男、誰だ?



 確か、名前は中川 創とか言ったか?



 あのくらい見た目が良けりゃー、会った事があるなら忘れないはずだ。



 何でも屋の時の関係者か?


 色恋関係で、嫌な役をかってでていた俺だったから、知らない奴から恨みをもたれている事もしょっちゅうだった。




 誰だか分からないが警戒が必要かもな。



 だけど、なんの悩みもなさそうな男。



 ただの八つ当たりだが、無性に見ていると腹が立った。



 チョコレートをくれたアノコにちょっとだけ似てて、そんな訳ないと思い、らしくなくソワソワしてしまった自分自身にも腹が立った。



 



 一応、恋をする目的で参加するはずのリアリティーショーだ。



 ある程度の経験はもちろんあるが、だが俺は恋をする気なんて全然なかった。



 いや、今更、こんな捻くれまくった俺が恋できるなんて思ってなかった。




 俺は恋愛をした事がなかった。



 



 

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