第2章 目障りな男

第5話 俺が抱えているもの(過去) (渉視点)



「ハッ......ハッハッ......」


 暗闇の中、俺の息遣いとコンクリートを蹴り上げる足音が響く。


 表通りは夜でも煌びやかなのに、細い路地に入ると街灯も一つもなくて、なんとも言えない匂いが漂っている。

 



 そんな中、かなり後ろの方からだが、数人の男達の足音も響いていた。



 俺は更に細い路地へと入り込み助走をつけて塀をよじ登り、その飛び越えた塀を背に男達の過ぎ去っていく足音を聞いていた。




 顔は見られていないから大丈夫だとは思うが、失敗した。



 



 自分ばかりどうしてこんな目にあうのか......。



 どうしてこんなにツイテイナイのか......。


 親元で呑気に暮らす奴らが羨ましい。



 俺も普通に生活していたら高校生な筈なんだよな。



 俺は息を整えた後、被っていた帽子や着ていた上着を鞄に入れて、別の道からなに食わぬ顔で表の道に出た。



 俺を追ってきていた男どもは、もう近くにはいない様だ。



 上手い話には裏があるとは言ったものだ。


 次からはちゃんと客を見て判断し、ヤバそうなのは断わろう。






 俺のこの呪われた様なツイテイナイ人生が始まったのはいつからだろう?



 優しく大好きだった母さんが事故で亡くなった時から始まったのかもしれない。



 父さんはすぐに再婚したが、その後にきた女は最悪だった。


 さすがに暴力は振るわなかったが、いつも家にはいない。なのに知らない男が家の中を出入りする。



 父さんは好きでその女と再婚したのか分からない。


 出張ばかりで家を空けてばかりいる父さんは家がこんなに無茶苦茶になっているなんて知らなかっただろう。



 俺は義務教育を終えたらすぐ、家を出た。


 住み込みで働かせてもらえる所は見つかるには見つかったが、一人で生きていくには金がいる。



 俺は随分と冷めた奴に成長した。



 金の為なら自分の身体も使ったし、少し危ない橋も渡った。


 信じているのは自分と金だけ。

 自分以外は信じない。



 愛とか恋、そんなものは糞食らえと思っていた。





 そんな俺でもガキの頃はもうちょっと違った。


 家にも居場所はなかったが、学校でも嫌な奴らに追い回されていた。




 あの時の俺はただの弱虫だった。



 あの時会った子、あの子と出会って俺は変われたんだ。


 


 チョコレートをくれたあの子。



 長い前髪、ズレ下がった眼鏡から、ちょこっとだけ見えた大きな垂れ目が可愛くてちょっとドキドキした。




 俺の友達は今まで生きてきた中で、あの子だけだったかもしれない。



 友達。そう思っていたのは俺だけだったかもしれないけど......。

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