第3話 変身願望?!(創視点)




 書類を送ったと聞いた次の日から妹の、光留の計画は始まった。


 元から俺は妹に甘い。


 光留は読者モデルもしているみたいだし、俺と住む世界が違う。


 まあ、言うなれば光留は陽キャ、俺は陰キャって奴だ。


 最近でも変わらず甘えてきてはくれるが、彼氏もいるみたいだし、もうちょっと成長したら話もしてくれなくなるかもしれない。


 常日頃からそんな風に考えている俺だった。



 なんか想像したら悲しくなってきたな......。



 あの、『お兄ちゃんお兄ちゃん』といつも俺の後ろからついて回ってきていた光留から、そのうち『お兄、ウザい』なんて言われる様になってしまうんだろうか?



 いや、天使の様に可愛くて、こんなモサイ俺を本当は格好良いなんて言ってくれる優しい光留の事だ。


 そんな事はない筈だ。




 つまり何が言いたいかと言うと、どうせ受かりもしないオーディションだ。

 光留が折角、俺の為を考えてくれての行動だ。

 そんな可愛い光留の『お願い』を聞いてやっても良いかな?


 なんて俺は軽く考えていた。




 学校では温和な性格が幸いしてか昔から友達が多い俺、まあ色んな事が頼みやすく都合の良い存在だったんだろうとも思うが......だけど、人気者と友達が多いはまた違う。




 俺はつねに揶揄われる三枚目的存在。


 まあよく言えば盛り上げ役って奴だ。



 そんな俺だから恋人いない歴、年齢だし、もちろんキスもした事がない。



 小さな頃から妄想ばかりしていた俺だ。


 男だが人一倍ロマンチックだったりもする。



 キス......とか、初めての恋人......とか、実はめちゃくちゃ憧れていたりする。



 女々しい男と思われるかもしれないが、実生活が地味な分、憧れだけがどんどん積み重なっていっているのかもしれない。



 だからアイドル級に可愛い光留から、『お兄ちゃんを私が格好良くしてみせる!』なんて言われたら......「そんなの、元が良くないと頑張っても格好良くなるなんて無理だぞ? 太っていたらダイエットすれば随分見た目は変わるかもしれねーが、俺は中肉中背だ」なんて言葉も思わず飲み込んだ。



 まあある程度、身長は高い方かもしれない。


 175cm。高校二年の身長なら平均的だったりするのだろうか?



 光留が言うように格好良いと言われる様な男に俺がなれる訳はない、そう分かってはいたが、憧れてはいた。



 自分ではなる事は叶わない。



 格好良くて、信念があって、頼りになって、誰からも好かれて男らしい、そんな男に......。



 変身願望。




 妹の遊びに付き合ってやろうと思ったのは少なくとも俺にも変身願望があったのだろう。



 女の子にキャーキャー言われたい訳じゃない。

 言われてみたい気持ちは確かにほんのちょっとはあるけど、そんな夢の様な話、妄想だけで充実だ。



 だけど、俺の事を、俺の事だけを好きだと言ってくれる、そんな存在に、いつかいつか巡り逢いたい......。なんて淡い夢をもっていた俺だ。




 楽しそうに俺を格好良くしようとしている妹の計画に付き合ってやっても良いかな?



 なんて思っていたりした。




 そして行かされたのは妹の行きつけの美容室、眼科とコンタクトレンズ屋さん。

 昔からのこの馴染みの眼鏡からコンタクトにするのはかなりの勇気がいった。



 ある意味、この眼鏡は自分の考えを読まれないフィルターみたいなものだったのかもしれない。




 肌の手入れや、ある程度の筋トレも光留から色々と言われ、かなりのお金も時間もかかった。


 モヤシっ子の様に細かった俺がある程度筋肉がついたのも嬉しかったし、俺の身体も、頑張れば応えてくれる事が分かって嬉しかった。



 丁度、夏休みもあり、時間もあったし、俺は小説を書く為、人間観察をする為にバイトもしていたからある程度お金もあった。




 そして、目の前の姿見に映った自分がいったい誰か分からなくて驚愕していた俺だった。




 へ?



 何?




 俺ってイケメンだったの?






 衝撃的な事実だった。




 そしていつのまにかオーディション当日。会場には光留もモチロン着いてきてくれた。




 そして、初めてこのリアリティーショーの内容を知った。



 恋愛をする。




 それもそうなんだか、夢を持っている若者を応援する企画だったらしい。



 それは俺と同じく作家、俳優、音楽家、画家、写真家、他にも様々だったがとにかく成れる人が一握りな、そんな若者が夢を追う、そんな中で恋愛をする。




 そんなリアリティーショーだったらしい。





 始めは受かる訳ない。



 妹の遊びに付き合っているだけだ。


 そう思って望んだオーディションだった。



 だけどコレはチャンスかもしれない。

 


 さえなかった俺が生まれ変わる為のチャンスかもしれない。



 受かるかもわからない。

 だけど、俺は緊張に腕を震わせながら、他のキラキラした人達を見ながら、場違いだ。そう思いながらも......もしかして、もしかして俺の作家になる夢が叶うかもしれない、そう思った。

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