第1章 再会と始まり
第1話 さえない俺がイケメンに?! (創視点)
20X X年7月 某撮影現場
「初めまして、高梨 渉です」
アイツの声が部屋の中に響く。
ここは少し広めの洋室。
長めの大きなテーブル、その周りには椅子が並んでいる。
部屋の中の色はベージュ、家具の色は茶色、皆が落ち着いて過ごせるリビングと言った感じだ。
だけど普通の部屋とは少し違った所もある。
部屋の隅に大きめなカメラが何台か置いてあってカメラマンと共に此方を向いている。
それにそのカメラの映らない位置に数人のスタッフがいる。
そう、ココはあるテレビのリアリティーショー番組の撮影現場。
アイツが喋り出すまで俺は別の事を考えていた。
それまではアイツの横でアイツの前に、自己紹介された可愛らしい女の子に目を奪われていたんだ。
俺はごく普通の男子高校生。
まあ、目立ちたがり屋でもないし、将来俳優になりたいとか有名になりたいとか思っている訳じゃない。
だから今、流行りのリアリティーショー番組なんて別に興味があった訳ではなかった。
俺の趣味は物語を紡ぐ事。
俺は友達にも内緒で、ずっと一人で小説というものを書いていた。
それは人に見せれる程の代物でもなかったし、でも自分自身で世界を作る、作り上げる楽しさを知ってしまった俺は病みつきになっていた。
どうして、ごく普通の男子高校生だった俺がこの番組に出演者として参加する事になったかは、また別の機会にでも話そうと思うが、それよりも俺は目の前の男から目が離せなかった。
あれは小学三年生の時。俺は幼い頃から一人でいる事が好きだった。
でも、何故だか分からないが俺の側には友達が寄ってきた。
俺はそいつらに優しくしていたつもりもないのに、俺の周りは数人の男友達に囲まれる事が多かった。
だけど俺は一人になる時間も好きで、そういう時間も必要だった。
ランドセルを背負っていた俺は男友達をなんとか上手く巻いて、ちょっとだけ小高い丘の大きな木の下で空を眺めていた。
その木の側には先程まで乗っていた自転車が置いてある。
この自転車を買ってもらってからはこうして、ちょっとだけ遠出をする事も可能だった。
この丘はちょっと高台にあるからかここから離れた所にある住宅街も小さく見えた。
空は色々な色があり変化がある。
俺は空を見ていると、色々な物語が浮かんだ。
その空にあった、その空気にあった、そんなキャラクター、シチュエーションが俺の頭の中をグルグルと回る。
それは俺にとって至福の時。
その浮かんだ内容をノートにメモし、帰ってからパソコンに向かうんだ。
そんな風に俺が妄想、想像の世界にdiveしていた時だった。
俺と同い年くらいの男の子が滑り込む様に駆け込んできた。
その少年が、俺が居た大木のさらに奥にある草むらに身を隠した所で、数人の男の子達が駆け込んできてキョロキョロと周りを見渡している。
どうもアイツは、あの男の子達に追われている様だ。
イジメにでもあっているのだろうか?
男の子達も俺やアイツと同い年くらいだけど、少し体格が良かった。
俺は誰か来てないか尋ねられたが、適当な方を指さして答えると、その男の子達は指をさした方向に向かって走っていった。
その子達がまた戻ってくるといけないし俺は草むらの中に隠れている男の子の事は放っておいて空を再び眺めた。
今日の空の色も綺麗だな。
雲も大きくて、あの空の上には何が生き物でも住んでいるみたいだ。
そんな風に想像しながら楽しんでいた時だった。
[ぐぅー]
静寂な中にそんな可愛らしい動物の鳴き声の様な音が聞こえて思わず俺は背後の草むらの方に振り返った。
な、何?
もしかして、腹の音?
お腹が空いているんだろうか?
俺は自分のカバンの中を覗き込んで食べるものが入ってないか見た。
奥の方に食べかけの板チョコが入っていた。
俺は板チョコを握りしめて声をかけようと振り返った。
草むらの中から赤い靴下だけが見えた。
一瞬血かと思って俺は慌てながら駆けつけた。
だけどそれは血ではなくて普通の赤い靴下が、泥で汚れて血液の様に見えただけだった。
何故急に、こんな事を思い出したのか「高梨 渉」そう自己紹介した男の顔がその時出会った男の子の顔となんとなく似ていたからだ。
俺はずっとあの時会った男の子の事が忘れられなかった。
そしてその男の子に顔が似ている高梨 渉の事を俺はどうしても、気にしてしまっていた。
「緊張しますね」
隣から聞こえてくるその声に、慌てて我にかえった。
女の子らしい可愛らしい声だった。
俺はなんとか現状を思い出し目の前の事に意識を戻した。
もうカメラは回っていないからってボーッとしすぎてしまった。
俺に声をかけてくれたのは、先程、俺が可愛いと見惚れていたボブショートの女の子。
身長は155cmぐらいで、目は大きくパッチリの二重瞼。
普段生活していたら、こういう女の子とお近づきになる事は無いに等しいだろう。
「あっ、そうですね」
当たり障りのない返答を返す俺、こんな可愛いらしい女の子との会話なんて、そんな貴重な時間。
この先ももうないかもしれない。もっと話を盛り上げないと!
……と、だけどいつもの調子で話さない様に気をつけなければ。
そう思いながらも俺は先程の男の顔を目の端で追ってしまっている。
「ちゃんと私の話、聞いてますか?」
上目遣いで見上げてくる女の子、名前なんだったっけ?
緊張でまだ周りがよく見えない。
俺は、本当はこんなリアリティーショーにでる様な人間じゃない。
一人で空を見ながら妄想する方がお似合いだし、その方が性に合っている。
「素っ気ないですね。でもクールで格好いいです。女の子を何人も泣かせてきたんじゃないですか?」
そんな風にからかう様に女の子が笑う。
少しだけ胸元が広いTシャツは、少し覗き込めば、豊満なバストが見えてきてしまいそうだ。
俺は普段はクラスの女子の友達はいても、恋愛感情は持たれていない。
ちょっと前髪長めでイモっぽい見た目だからかもしれない。
だからこの女の子が言うように、普段の俺は、全然モテないし、むしろよく、相談相手にされるぐらいだ。
だけど、今回俺は、このリアリティーショーに参加するにあたって、今までと全然見た目が違う、『イケメン?』という奴に大変身をとげていた。
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